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14.11-25 登校25

 スケルトンという魔物がどういう原理で動いているのかは、未だ誰にも解明されていない。理由はいくつかある。好き好んで解明に乗り出そうとする者が殆どいないこと、そもそもスケルトンを生け捕り(?)に出来る者が少ないこと、そして捕まえられたとしてもたったの1体ではまともに実験すら出来ないことなどなど……。研究が進むのは、人々が魔物を凌駕するような力を持つ、遙か先の未来になることだろう。


 ただ……。世界の中でたった一人だけ、スケルトンを始めとしたアンデッドのメカニズムについて、"真理"に近い理解をしていた者がいた。


『なんとも、因果ですね……』


 ポテンティアだ。


 とはいえ、彼はアンデッドの研究をしていたわけでもなければ、誰かの研究を知っていたわけでもない。


『広義の意味では、僕たちもアンデッドなのですよね……』


 ポテンティアやエネルギア姉妹は、マイクロマシンの集合体でありながら、ワルツやコルテックスたちのような人工知能ではなく、物質に取り憑いた複数の魂の集合体だったのである。


 ゆえに、彼らは、広義の意味で、アンデッドと言っても過言ではなかった。所謂"アンデッド"と異なるのは、死体や動物の骨に取り憑いたのか、それともマイクロマシンたちに取り憑いたのか、という違いだけ。しかし、その違いが、ポテンティアとスケルトンとで、決定的な力の差を生じさせていた。


『まぁ、僕のことはどうでも良い話ですけどね。さて、そこのスケルトンさん。せっかく出てきたところ申し訳ないのですが、このままあなたが暴れ回ると討伐しなければならなくなるので、大人しく迷宮の中に帰るか、元の死体に戻っていただけると助かるのですが……』


 迷宮の入り口から肩まで覗かせていた巨大なスケルトンに対して、少女の姿のポテンティアが話しかける。端から見る限り、スケルトンがポテンティアの話を聞くようには見えないどころか、スケルトンが人語を理解するかどうかすら分からなかったが、それでもポテンティアは、話が通じると信じていたらしく、静かに返答を待っていたようだ。自分に出来るのだから、スケルトンもまた出来はず……。そんな事を考えていたらしい。


 実際、言葉は通じていたようである。スケルトンは、まるで笑うように、その巨大な顎をガコンガコンと揺らしながら、こんな音を生じさせた。


《——小者——笑止——》


『やはり喋れますか。できれば、同胞たるあなたのことを傷付けたくはないので、お引き取り願えませんか?』


《——同胞——否——小者——生者——皆——殺——》


『いったい、どんな短絡的な思考をしているのですか……。せっかく、考える力があるのですから、頭を使ったらどうですか?あっ、これは失礼。頭はすっかり腐り果てて空っぽでしたか……』


 と、ポテンティアが口にした直後。彼の発言を挑発と捉えたのか、巨大なスケルトンが動き出す。彼は、腕を勢いよく振り上げて、地面ごとポテンティアの事を葬ろうとしたのだ。


 ポテンティアの足下が割れて、巨大な骨と、土砂が襲う。直撃だ。


 先ほどルシアが転移させた町からポテンティアの行動を確認していたミレニアやジャックは、吹き飛んだかのように見えたポテンティアを見て、思わず声を上げた。そんな彼らには、ポテンティアとスケルトンとの会話は聞こえていない。当然、ポテンティアが何者なのかも、彼らには伝わっていない。


 一方、ポテンティアの正体を知っていたワルツたちは、吹き飛んだポテンティアを前にしても、大して——いやまったく気にしていなかったようである。


「晩ご飯どうする?」

「もちろん、お寿司かなぁ」

「妾的には、豚骨スープを使った料理以外が良いのう。骨はしばらく見たくないのじゃ。料理をしておって、突然動き出したら気持ち悪いからのう……」

「ちょっ……ちょっと皆さん!ポテ様のことは気にされないのですか?!」


「「「えっ?なんで?」」」

「えっ……」


 一人、話について行けなかったアステリアが戸惑っていると——、


『……僕的には、作るのが簡単な料理がいいですね。実は僕、今夜の晩ご飯の料理担当なのですよ』


——と、何事もなかったかのように、ポテンティアがアステリアの隣に現れた。


「ポ、ポ、ポ、ポ、ポテ様?!」


『どうかされたのですか?アステリアさん。まるで僕のことを幽霊か何かのように驚かれているようですが?』


「そ、それは……」


 驚いて当然だ、とアステリアが口にする前に、ポテンティアが謝罪する。


『いえ、冗談です。アステリアさんもご存じの通り、僕はたくさんいるので、この僕は、あそこで戦っている僕とはまた別の僕ですよ。まぁ、見ていて下さい』


 そう口にしたポテンティアが、アステリアに向かってニカッと爽やかな笑みを向けた直後の事だ。


   ズズズズズ……


 周囲の森から黒い液体のようなものが流れ出してくる。その液体は、見る見るうちにスケルトンの近くに集まってくると、徐々に背を高くしていき……。スケルトンの背よりも高くなってしまった。


 そしてその黒物体が明確な姿を形作るのだが……。その姿はまさしく——、


『やれやれ……。まったく、骨が折れることですね。さて()()()()よ。あなたの辞書に新しい1ページを追加して差し上げましょう。(ポテンティア)について記された最後の1ページを、ね』


——巨大なポテンティアだった。それも、少女型の。

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