14.11-21 登校21
凄まじい轟音が上がったのと、迷宮の入り口で何かが爆ぜたのは同じタイミングだった。その際、魔法使いたちは、迷宮に向かって魔法は放っていない。文字通り、突然爆発が生じたのだ。
予想しなかった事態に、冒険者たちは慌てて身構えた。休んでいた者たちも、魔法を放つ準備をしていた者たちも、あるいは魔法が使えず戦闘以外の仕事に従事していた者たちも、皆が例外なく武器を取って、一斉に音が聞こえた方を振り向いた。
「なんだ?!」
「何が起こった?!」
「抑えきれなかったのか?!」
今、迷宮で不可解な爆発が生じるとすれば、理由はただ一つ。化け物じみた魔物が迷宮から外に出てくるために、迷宮の入り口を吹き飛ばそうとするくらいしか考えられなかった。なにしろ、冒険者たちは、今の今まで、迷宮から魔物が出てこないようにと、迷宮の中に向かって魔法を撃ち込んでいたのである。これまで彼らの作戦は、一応の効果を発揮していたようだが、もしも魔物側が本気を出していなかったとすれば、今回の爆発も説明が付くのではないか……。冒険者たちの脳裏では、悪い考えばかりが、沸き上がってきていた。
しかし、時間が経つにつれて、冒険者たちが思っていたような出来事にはなっていないことが明らかになっていく。
「あいつは……どこだ?」
「迷宮から出てきてはいないようだ」
「まさか、さっきの爆発に巻き込まれて木っ端微塵になったのか?」
「分からねぇよ。俺に聞かれたって……」
冒険者たちが迷宮の周りで警戒する限り、迷宮の中から出てこようとしていた魔物の姿を見つける事はできなかった。見えていたのは、土煙に包まれた迷宮の入り口の姿と、いつの間にか出来ていた大きなクレーターの姿だけ。
そんな状況に、冒険者たちは、ますます困惑する。何か大きな爆発現象が起こったのは確かで、皆が音を聞いていたというのに、しかし、爆発の原因になったと思しきものは何も無く、ただ突然、迷宮の入り口が爆発したようにしか思えなかったからだ。何か強大な魔力を感じたわけでもなければ、爆発するような魔道具が設置されていたわけでもなく、当然、魔物が自爆したわけでもないはずだった。結果、少なくない者たちが首を傾げてしまう。
その事実だけを取り上げれば、この町には突然爆発する迷宮がある、ということになるのだが……。迷宮から出てこようとしていた魔物が、爆発と共にいなくなっていることに気付いた村人たちにとっては、爆発の危険性など些細な事だったらしく、所々で歓声が上がり始めた。
「おい!魔物がいなくなったぞ!」
「う、嘘だろ?!や、やった!」
「いや待て!喜ぶのは、間違いなく"奴"がいなくなったことを確認してからだ!」
そんな会話の通り、喜ぶ者と警戒する者の比率は半々くらい。ただ、全体的に皆の表情が明るかったのはいうまでもないだろう。
と、そんな時。
スタスタスタ……
迷宮の中から、1人の少女が現れる。学生服を着た少女だ。しかし、身長はかなり低めで、到底学生には見えないくらい幼く見える少女だった。そんな彼女が、ただ1人だけで、未だ土煙が収まっていなかった迷宮の中から出てきたのである。それも、何やら大きな岩のようなものを抱えながら。
そんな彼女の姿に、町の人々の視線が一気に集まる。喜んでいた者たちも、警戒していた者たちも、例外なく、少女の方へと視線を向けた。そして人々は、一斉に表情を固まらせた。
というのも、彼女の腕に抱えられていたものは、ただの岩ではなく、透き通った水晶のようなものだったからだ。巨大な魔石だ。魔物の体内で生成されるという魔力の結晶である。
たとえ子どもの小さな腕とはいえ、腕に抱えなければ持ち上げられないほどの巨大な魔石というのは、レストフェン大公国では見ることが出来ない代物だった。いや、レストフェン大公国があった大陸中のどの国に行っても同じだと言えるだろう。この大陸において魔物とは、人が真っ向から争っても勝てない強者。たとえ魔物の中に巨大な魔石があったとしても、それを人が拝むことなど不可能なのだから。
しかし、その不可能が、皆の目の前にあった。少女の腕の中には、確かに巨大な魔石が抱えられていたのである。いったいどれほど強大な魔物を倒せば、今、少女が持っているような魔石を手に入れることが出来るというのだろうか……。
そう考えた冒険者たちは、一斉に同じ事を考えた。……あの魔石は、迷宮から出てこようとしていた魔物が持っていた魔石なのではないか、と。
そして、同時に冒険者たちは思う。……あの少女は何者なのか、と。
そんな冒険者たちの視線を浴びていた少女は、学院から来たと思しき一行の所まで歩いて行くと、そこに立っていた年長者の女性に向かって、スッ、と手にした魔石を差し出しながら言った。
「ハイスピア先生。授業で採ってくる魔石って、これでいいですか?それとも、もっと別の魔石ですか?あっ……魔石じゃなくて、鉱石でしたっけ?」
そんな少女の問いかけに対し、ハイスピアと呼ばれた教師は、ニッコリと笑みを浮かべていたようである。それも、まるで壊れかけたからくり人形が無理矢理に笑みを再現するように、カタカタと謎の振動を伴いながら……。
地の文を減らして台詞を増やそう……と思って書いたら、地の文が増えたのじゃ。
おかしいのう……。




