14.11-20 登校20
そして、ワルツたちはラニアの町の中心部にやってきた。本来であれば、迷宮の入り口があるはずの場所だ。
そこには、町の人々が集まっていた。しかもただ集まっていたわけではない。疲れ切った者。傷ついた者。傷ついた者たちを癒やす者。人々に炊き出しをする者。人々に指示を出す者などなど……。まるで戦場にある陣地ような光景が広がっていた。
そんな中、冒険者と思しき者たちが——、
「次のグループ!魔法斉射!」
ドゴォォォォンッ!!
——といったように、皆で迷宮の入り口と思しき場所に向かって、魔法を撃ち込んでいく。町の中心から断続的に上がっていた黒煙は、これが原因だったらしい。
「これ、どういう状況なのかしら……」
冒険者たちは何故、迷宮と思しき場所に向かって魔法を撃ち込み続けているのか……。その理由を探ろうとして、ワルツが迷宮の入り口を凝視していると、彼女の目に、チラリと何か白いものの姿が目に入ってくる。
それは人骨だった。皮膚も無ければ肉も付いていない、真っ白な骨。そんなものが二足歩行で歩いていたのである。それも、人よりも何倍も大きな人骨が、騎士のような鎧を纏いながら。
「(ふーん。スケルトン……ソルジャー?よく分かんないけど、非科学的ね……)」
一体どんな原理で動いているというのか……。関節部に何か動力機構でも入っているのだろうか……。ワルツがそんな事を考えながら、迷宮の入り口の方を眺めていると、彼女の後ろからグループメンバーと教師が追いついてくる。
「あれは……」
「スタンピード……?いや、なんか違うな……」
「……強い魔物が迷宮から出てこようとしているのか?」
「え゛っ……」
ラリーの呟きを聞いたハイスピアは何かに気付いたらしく、彼女は慌てて周囲を見回した。そして、誰かを見つけたのか、彼女はワルツたちに対し、こんな言葉を残してから、その場から去って行く。
「全員、私が戻ってくるまでここで待っているように!もしも身の危険を感じるような事があれば、私の事は待たずに学院に帰りなさい!良いわね?」
と言ってハイスピアはその場から立ち去っていった。
一方、その場に残された学生たちは、ここまでやってきたはいいが、何が起こっているのか分からなかったためか、戸惑ってしまう。いざ手伝おうにも、何を手伝って良いのか分からなかったのだ。
しかもハイスピアは、その場で待機しているようにと、明確に指示を出したのである。勝手に手伝って良いとも思えなかった。
「何が起こってるんだと思う?」
ミレニアがその場にいたグループメンバーたちに問いかける。知識が豊富な彼女にも分からない事だったらしい。
そんな彼女に対して答えたのは、ここまであまり多くを語ってこなかったラリーだった。
「……前に聞いたことがある。ごく稀に迷宮の中からフロアボスが出てくる事がある、と」
「それは……」
迷宮の中から魔物が出てくるというのは、よくある出来事である。その中に、フロアボスと言えるような強力な魔物が含まれていることがあるというのは、一般的にも知られていることだった。
しかし、町の人々が束になって戦うような魔物が迷宮から出てくるというのは、少なくともミレニアには聞いた事が無かった。一般的に知られているフロアボスの流出現象は、表層に近いフロアからの流出であって、深部にいるようなボスが外に出てくるというのは、稀も稀。記録にも残っていない事だったのである。
「でも、あんな風に町の人たち全員から魔法を受けても倒れないフロアボスって……」
「……魔法無効の可能性がある」
「「そ、それって……」」
「これだけの人たちが戦って倒せていないんだ。恐らく、かなり深層のフロアボスか、あるいは……迷宮の主か。だからこそ、ハイスピア先生は、俺たちにここで大人しくしているように言ったんだろう。今の俺たちじゃ、あの穴蔵の中にいるやつと戦ったところで、相手にならないからだ。逃げる準備をした方が良いと思う」
ラリーは、ミレニアとジャックに対してそう言ってから、最後にワルツの方を振り向いた。皆の先頭に立って意気揚々とここまでやってきたのはワルツであり、この町から逃げるにしても、ワルツの事を説得しなければならないと考えたのだ。
だが、ラリーが後ろを振り向いても、そこにはワルツの姿はいなかった。つい先ほどまで、彼女はすぐ近くにいたというのに、いつの間にか忽然と姿を消していたのである。
一体どこに行ったのか……。ラリーが周囲を見渡すと、彼はワルツの姿を少し離れた場所に見つけたようである。そこで彼女は、地面に横たわる兵士の剣を手に持って、その剣をしげしげと観察しているところだった。まるでその剣を持って、これから迷宮の魔物と戦わんとしているかのように。
流石にそれは無謀すぎるだろう、とラリーが考えていると、ハイスピアが慌てた様子で戻ってくる。彼女の表情は真っ青で、最悪の事態が起こっていることを物語っていた。
そして、ハイスピアがラリーたちに対し、何かを問いかけようとした——恐らくは、その場にいなかったワルツの事を問いかけようとした、その瞬間のことだ。
チュドォォォォンッ!!
ひときわ凄まじい轟音が、町の中に響き渡ったのである。




