14.11-19 登校19
ワルツたちは、ラニアの町に到着していた他のグループに先行して、町の中に入ることになった。他には2グループ到着していたわけだが、その内、ポテンティアたちのグループは、アステリアが車酔いでグロッキーで……。そしてルシアとテレサのグループは、残る2人がダウンしていたので、すぐには行動できなかったのだ。
ラニアの町は、森の中に作られていたためか、街の周りをぐるりと壁が囲い込む構造をしていた。外から一見する限りでは城塞都市そのものだが、実際にはそうではなく、分厚い壁が構築されていたわけではなかった。壁で防ぎたかったのは、外部からの人間ではなく、森からやって来る魔物だったからだ。
そんな市壁には、当然、正門と言える場所があって、他の街の例に漏れず検問が設置されていたようである。しかし、今、そこには、兵士らしき人物は立っていなかった。
「誰も……いない?」
「なんか、気持ち悪いわね」
前にもこんな出来事とがあったような気がする……。あのときは確か、町の人々が全員ゾンビになっていたのではなかったか……。ミッドエデンの北部にある町で起こった凄惨な事件を思い出しながら、ワルツはミレニアの言葉に相づちを打って、歩みを進める。
彼女たちが歩くラニアの街に、高い建物は無かった。最大で3階建て。少し高いところまで登れば、街の隅々まで見通すことが出来るような低層の街並みが続いていた。
そのおかげで、どこから煙が上がっているのか、町の入り口からもハッキリ見ることが出来た。街の中心部だ。
「あれは、迷宮の入り口がある方角だな」
「ジャックって、この町に来たことがあるわけ?」
「あぁ。親に連れられて何度か、な」
ジャックとワルツがそんなやり取りを交わしている間にも——、
ドォォォォンッ!!
——と大きな煙が上がった。
そんな街の中に、人々の姿は無く、まるでゴーストタウンのようだ。人気らしき人気は無い。とはいえ、荒らされた形跡も無ければ、戦闘を行った形跡も無い。
「一体、何が起こっているのかしら……」
ミレニアが眉を顰めながら口を開く。そんな彼女の言葉に、ラリーが反応を返す。
「良くない事だろう。良いことが起こっているわけがない」
「でしょうね。……ねぇ、みんな」
ミレニアはそこで立ち止まると、グループメンバー(+教師1人)に向かって言った。
「やっぱり、この先に行くのはやめない?」
「「えっ……」」
「町がこんな風になるなんて、絶対におかしいわ?これ……私たちにどうこうできる問題じゃない気がするの」
ここまで来て尻込みをしてしまったのか……。急に後ろ向きな発言を始めたミレニアを前に、ジャックとラリーは思わず眉を顰めた。
しかし、そんな彼らは、ミレニアの言葉に反論するようなことはしなかった。彼女の言うとおり、町の中に人がいないのは奇妙すぎる上、爆発音や轟音が響いてきていたので、小さくない恐怖を覚え始めていたのだ。
そんな中。
「ま、そうでしょうね」
ワルツはミレニアの言葉に頷きつつも、歩みを止める事なく前に進んだ。
そんなワルツの行動には、ミレニアも他の3人も、戸惑いの表情を隠せなかった。最初は消極的だったワルツが、なぜ積極的な態度を見せているのか、皆が分からなかったのだ。後悔しないのか、と問いかけた本人であるジャックも含めて。
対するワルツは、後ろから4人が付いて来ないことに気付いて、足を止めると、前を向いたままこう言った。
「ここから先は私だけで行くから、皆はここで待っていてもいいわよ?」
轟音の中でも不思議と聞こえるワルツの声に反応して、ミレニアが問いかける。
「どうして——」
どうして前に進もうとするのか……。明らかに異様な状況中、ミレニアが問いかけようとするも、彼女の声は轟音にかき消されてしまう。
しかし、ワルツの耳には、ミレニアの言葉が届いていたらしい。
「だって、どうせ後悔するなら、やらないで後悔するよりも、やって後悔した方がマシじゃない?たとえそれが、どんなに困難な状況だったとしてもさ?」
ワルツはそんな言葉を残して、黒煙の上がるラニアの中央部に向かって歩いて行った。
対するミレニアたちも、その場に留まるという選択肢は選べなかったらしく……。4人とも覚悟を決めたように真剣な眼差しを町の中心部へと向けながら、歩き出したのである。




