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14.11-17 登校17

 移動の途中、ワルツたちは、歩いてラニアの町に向かっていたクラスメイトたちを追い越した。一瞬の出来事だ。ワルツたちの車両は殆ど音を立てず、クラスメイトたちの横を風のように通り過ぎた。


 歩いていたクラスメイトたちは、ワルツたちの車両をただ見送るしかなかったわけだが、そんな彼らの表情を言葉で表現するのは難しい。敢えて言うなら"愕然"が近いかも知れない。何が通り過ぎていったのかも分からないまま、真ん丸とした目をひん剥きながら、ぽかーんと口を開けたまま固まっているといった様子だった。


 ちなみに追い越した側のワルツたちは、クラスメイトたちを追い越したことには気付いていなかったようである。同乗していたハイスピアたちにとっては一瞬の出来事だった上、動体視力が抜群なワルツはクラスメイトたちの顔を覚えていなかったからだ。なんか学生服を着た者たちがいた、といった程度の認識だった。


 それが2時間ほど前の話。その後も猛スピードで森を抜け、峠を越え、そして再び森の中を走り、空を登る太陽が頭の上を通り過ぎた頃——、


「あれがラニアね?」


「「「早っ……」」」「…………」


「思ったほどの距離じゃなかったわね」


——ワルツたちはラニアが見える場所に辿り着いた。


「……なんか私の常識が崩れそう」

「あぁ……粉々にな」

「さすがはワルツ先生です!」

「……確かに早かったな」


 学院からラニアまでの距離は、およそ100km。途中、小さな峠があり、歩いて移動したなら相当疲れてしまうことだろう。しかし、ワルツたちは車を使って移動。疲労などとはまったく関係は無かった。信号も無ければ渋滞も無い街道を走るというのは、ただただ快適なだけの旅。単なるドライブに過ぎなかった。


 それから間もなくしてラニアの町の外まで来たところで、ワルツは車両を止めた。流石に車に乗ったまま町に乗り込むというのは気が引けることだったらしい。


「はい、到着。他に到着してる人は——」


「いるわけがないわ」

「いたらすげえよな」

「そうね。一番乗りなのは間違い無いと思うわ」

「…………」


「確かに一番乗りだったみたいだけど、僅差ね」


 とワルツが口にしたときだった。


『おや、皆様。このようなところで奇遇ですね?』


 森の中からよく知った声が聞こえてくる。ポテンティアの声だ。彼女(?)の声と共に森の中から現れたのは黒い馬車。ポテンティアのマイクロマシンたちが形作った乗り物である。


「もしかして、ポテンティアが一番乗り?」


『いえ、今、着いたところです。出発する際、()()()()()に乗るかどうか最後まで悩んでいましてね?でもワルツ様が自動()車を作っておられたようなので、結局、僕らも馬車で移動することにしたのですよ。そのせいで、少し遅れてしまいました』


「あぁ、そう。ポテンティアのことだから、空を飛んでくるかと思ってたわ」


 とワルツが相づちを打つと、黒い馬車の中から蒼い顔をしたアステリアと、目を輝かせた学生たち2人組が降りてくる。どうやらアステリアは車酔いに陥り、そして学生たちは、馬車による高速移動に大興奮していたようである。


 その後すぐのこと。


   ドドドドド!!


 なにやらけたたましい音と土埃を上げながら、銀色の何かがやって来る。見た目は完全に自動車で、ボディーは金属で出来ているらしい。それもタイヤの部分まですべてが。


 そんな乗り心地の悪そうな車両に乗っていたのは、ルシアとテレサたちのグループだった。どうやら、テレサが知識を出して、ルシアが金属を精錬して加工し、短時間で車を作ったらしい。けたたましい音を上げていたのは、魔導エンジンを搭載しているからか。


「あー、超五月蠅かった!風魔法でバリアを作ってなければ、今頃、鼓膜が破れてたね!」

「そりゃ、完成までの時短を優先したゆえ、消音器(サイレンサー)など付けておらんかったからのう」


 と言いながら、ルシアとテレサが降りてくる。そんな彼女たちの後ろの席には、クラスメイトたちが2人ほど乗っていたようだが、乗り心地がよろしくなかったためか、ぐったりとしており……。すぐには立てず、しばらく車から降りてこられそうにはなかった。


 そんな身内たちの姿を見た後で、ワルツは自分のグループメンバーの方を振り返る。そして、肩を竦めながら、不本意そうにこう言った。


「ほらね?断トツで一番早かった、ってわけじゃなかったでしょ?まぁ、他の生徒たちは知らないけれど……」


 対するハイスピアたちは、目を丸くしたまま固まっていた。まるで、ワルツたちが途中で追い越してきたクラスメイトたちのようだった。まさか、他の者たちも、ほぼ同じようなタイミングで追いつくとは、微塵も思っていなかったらしい。


「ん?皆、どうしたの?そんな狐につままれたような顔して……」


 いったい何を驚いているというのか……。まったく理解出来ないと言わんばかりの様子で、ワルツがグループメンバーに対して問いかけた、その直後のことだ。


   ドゴォォォォンッ!!


 なにやら大きな音が、ラニアの町の中から聞こえてきたのである。


狐を摘まみたいのじゃ。

こう、ガッ、と。

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