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14.11-16 登校16

  ゴゴゴゴゴ……!!


「わぁ!速いっ!」

「ちょっ?!速いとかそういうレベルじゃねぇ!」

「…………」

「この速度で走ってるのに、この安定感……流石ワルツ先生!」


 無限機関もといエッシャー機関の試運転に成功した後、ワルツたちは早速、試作車両に乗って、目的地であるラニアに向かって走り始めた。乗り心地も移動速度もミッドエデン製の馬車には及ばないが、それでもレストフェン大公国製の馬車に比べれば雲泥の差だったらしく……。馬車に乗ったクラスメイト(+教師1名)は、燥ぎながら馬車の旅を楽しんでいた(?)ようである。


 そんな搭乗員の反応を尻目に、ワルツはハンドルを操作しつつ、青い空を見上げながらふと思う。


「(そういえば、魔法陣について色々と分かってないことがあるのよね……)」


 通称エッシャー機関と名付けた動力機関には、転移魔法陣が取り付けられていたわけだが、その点に魔法陣には未だ分からない事がいくつかあった。


 中でも、ワルツにとって一番気がかりだったのは、適当に置いた2つの転移魔法陣が、なぜ思った通りにペアになるのかという点だった。今までワルツは、実験も含めると、多数の転移魔法陣を設置してきたのである。ミッドエデンや自宅には、今も稼働している転移魔法陣が設置されたままだ。これでもしも2つの魔法陣を紐付けることができていなければ、例えばミッドエデンで転移魔法陣を使った人物が、エッシャー機関の中に転移して、内部の水車に巻き込まれる可能性もあるのだから、メカニズムを解明するのは至急の課題だと言えた。


「(自動でペアリングするようなハイテク機能がついているわけでもなさそうだし……)」


 魔法陣にAIでもついているのだろうか……。そんな事を考えながら、ワルツは転移魔法陣の模様を思い出す。原理がまったく分からない転移魔法陣を分析できないか、彼女は時間があるときに考えていたのだ。


 しかし、眺めるだけでは何も分からず……。せめて他にも魔法陣があれば分析のしようもあるのに、と思いながら、ワルツは淡々と馬車を走らせた。


 と、そんな時。なぜワルツの馬車に乗っているのかよく分からないハイスピアが、生徒たちに対して忠告を口にする。どうやらワルツが考えに耽っている間に、話題が迷宮の話に移っていたらしい。


「皆さんはしっかりしているので、あまり心配はしていませんが、ラニアの迷宮では、絶対に2階層よりも先に進まないようにしてください。罠があったり、魔物が強かったりして、たとえ優秀な皆さんであっても危険な場所なので」


 そう口にするハイスピアに対し、ジャックが問いかける。


「ちなみに、どんな魔物が出てくるんですか?」


「詳しくは現地の冒険者ギルドなどで調べて欲しいのですが、2階層目から先では、アンデッドやゴーストの類いが出てきます。まぁ、実のところを言うと、2階層目から先は、魔物が強すぎて、殆ど探索が進んでいないみたいですがね」


「ふーん。そうなのか……。確かに、アンデッドやゴーストが相手なら、普通には戦えないですからね……」


「(ゴースト?そんな魔物がいるの?)」


 ワルツは話を聞きながら、ゴーストという魔物に少しだけ興味を惹かれていたようだ。日本語に直せば幽霊。そんな、超非科学的な存在が実在するのだとすれば、世界の常識——もといワルツの常識は大きく書き換わることになるからだ。


 それから、1階層目ではゴーストは出ないというハイスピアの話を聞いて、ワルツがしょんぼりとしていると——、


「ちなみに、2階層目以降にある罠というのは、どのようなものがあるのでしょうか?」


——今度はミレニアがハイスピアに対して問いかけた。


「最たるものは、転移魔法の罠です。地面に魔法陣が書かれていて、それを踏むと、どこかに飛ばされてしまいます。ちなみに、生きて帰ってきた人はいませんので、どこに飛ばされるのかは未だ分かっていません。遺留品が見つかっていることから、迷宮の中のどこかに飛ばされるというのは確実なようですが……」


「(なるほど。私が使っているエクレリアの転移魔法陣も、最初は迷宮探索か何かで見つかったものなのかも知れないわね)」


「あとは、踏んだ途端火柱に包まれる魔法陣や、カチコチに凍らされてしまう魔法陣とかもあr——」


「ちょ?!それ本当ですか?!」ギュウンッ


 ワルツは思わずハイスピアの方を振り向いた。ただし、ハンドルはそのままで。


「は、はい!そ、それよりも前を!」


「でも、実物を確認するためには、2階層目以降に行かなきゃいけないわね……」ブツブツ


 迷宮にある魔法陣を使えば、転移魔法以外の魔法も使えるようになるのではないか……。ワルツはそのことに気付いたらしい。


 しかし、当然、ハイスピアとしては認められるものではなかったらしく、彼女は念を押すように忠告した。


「あの、ワルツ先生?絶対にダメですからね?」


「……まぁ、そうね。今回は皆もいるし、自重します」


 ワルツは珍しく(?)、素直にハイスピアの忠告を聞き入れた。しかし、無条件ではない。そこにはこんな理由があった。


「(まぁ、別にラニアの迷宮じゃなくても、シュバル辺りに聞けば何か教えてくれそうよね……)」


 普段、カタリナと一緒にいるシュバルは、迷宮の子どものはずなのである。彼に魔法陣のことを聞けば、何か教えてくれるのではないか……。ワルツはそんな対案を思い付いて、2階層目以降迷宮探索を諦めようとしたのだ。


 しかし、結果としてワルツは、その案を実行には移さなかった。いや移せなかった。シュバルに会うことを忘れてしまうほどの出来事が、ラニアの町で生じてしまったのである。


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