14.11-15 登校15
急に奇声(?)を上げて、何やら作業を始めたワルツを前に、ミレニアもジャックもラリーもハイスピアも、皆が一様に目を丸くしていた。ワルツの行動は、誰の目から見ても、奇行としか言えなかったのだ。
しかし、そんなことなどお構いなしで、ワルツの作業は続いていく。彼女は車両に載っていた蒸気機関を軽々と取り外すと、今度はそこに歯車が大量についた細長い木箱を設置した。中には転移魔法陣つきだ。それも蓋と底に2つほど。
「よし、完成!我ながらヤバいものを作っちゃったわ……」
数分で完成した新たな動力機関(?)を前に、ワルツは納得げな表情を見せる。
一方、そんな彼女の行動を終始見ていた他の4人は、ワルツが何をしているのかまったく分からなかったためか、ぽかーんと口を開けたまま固まっていたようだ。ワルツの作った機械がシンプルすぎたことも、その理由の1つだったと言えるかも知れない。
対するワルツに、展開に付いて来られていなさそうな4人の姿は見えていなかったようだ。彼女は、自分に対して視線が集中していることなどお構いなしに、地面に落ちていた砂をかき集めて……。そして箱の中へと入れた。
その直後だ。
ゴゴゴゴゴ……ブォォォォン!!
砂を入れただけで、何故か箱に取り付けられていた歯車が動き始めたのだ。それも猛烈な勢いで。なお、クラッチは繋がっていないので、車両のタイヤまでは動かないようだ。
その様子にワルツが満足げな表情を見せていると、ハイスピアが興味深げに問いかける。
「ワルツ先生!それはいったい何なのですか?!」キラキラ
初めて見るメカ(?)だったためか、研究者として興味が湧いたらしい。
対するワルツは、「ふっふっふ」と怪しげな笑みを浮かべながら大げさに肩を揺らすと、作成した動力機関(?)について説明を始めた。
「これは……そう。名付けて、エッシャー機関!」
「「「えっしゃーきかん?」」」
「…………」
「この箱の中には、てn……まぁ、簡単に言うと、無限に砂が落ち続けているのよ。下に落ちたら、今度は上から降ってくる感じ?その砂を使って水車を回して、動力を得ているのよ。本当は水でも良いかなと思ったんだけど、水だと漏れし、濡れるし、蒸発するしで、管理が面倒だから砂にした、ってわけ」
と、核心の部分を伏せながら説明するワルツ。より具体的に説明すると、転移魔法陣を上下に配置し、その隙間に砂を入れると、アーティファクトの魔力が尽きるまで無限に砂が落ちるので、その落ちてきた砂を使って水車を回すという構造をしていたようだ。無限に水が流れ落ちているように見えるエッシャーのだまし絵のような構造をしているので、"エッシャー機関"。地球出身ではない他の4人にとっては意味不明な名前だったに違いない。
ただ、それでもハイスピアは、大興奮していたようである。構造や原理に関係無く、魔力で安定的な動力を作り出す"魔道具"というのは、これまで見たことも聞いたことも無かったからだ。
「すばらしい……」わなわな
「ん?まぁ、そりゃ——」
「素晴らしいわ!さすがはワルツ先生!このような魔道具を簡単に作ってしまわれるなんて!」
「えっ……」
「馬車を走らせるような魔道具など、聞いた事がありません!これがあれば、世界の道具という道具が大きく変わる事でしょう!時計だって、石臼だって……いや、そもそも馬が関与する道具は、すべて変わってしまうのだわ!」うっとり
「あ、うん……(やばっ……余計なものを作っちゃったかしら……)」
エッシャー機関を観察しながら大喜びしてブツブツと考えを口にするハイスピアを前に、ワルツは後悔していたようだ。ハイスピアの反応を見る限り、想定していたよりも、かなり重要な発明をしてしまった様子だからだ。
「(これ、転移前と後とで発動までの待ち時間を減らして、箱の中を真空にすれば、実質的には光速まで物体を加速できるって事よね。そう言う意味では確かにスゴい発明かも知れないわ……。まぁ、たとえ改良できたとしても、高速まで加速するのに、360年掛かるけど……。でもねぇ……)」
エッシャー機関を前に目を輝かせているハイスピアを見ながら、ワルツは人知れず悩んでいたようである。なにしろ、エッシャー機関に搭載されているエネルギー源であるアーティファクトは、"超"では足りないほどにスーパーな危険物。使い方を間違えれば、半径数kmにあるものをすべて過去の世界へと跳躍させてしまう代物なのである。その存在を説明したとき、ハイスピアがどんな反応を見せるのか……。ワルツには何となく想像が出来ていたのだ。
結果、ワルツは心に決めた。
「(……黙っとこ)」
と。
いつものワルツなのじゃ。




