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14.11-13 登校13

 ハイスピアは、実のところ、生徒たちが協力して困難に立ち向かうことを期待して今回のイベントを企画したようである。なにしろ

、今回のイベントは、生徒たちのわだかまりを和らげるために用意したレクリエーション。にもかかわらず、生徒同士の競争が始まってしまったというのは、ハイスピアにとって完全に想定外のことだったのである。


 ゆえに、彼女は生徒たちの行動を止めようかと考えた。本来の目的を達成することを考えるなら、生徒たちの考えを正して、ある程度の方向性を与えるべきだというのは明らかだったからだ。


 しかし、彼女は結局、生徒たちの行動を止めるようなことはしなかった。


「(なんか、面白そうですね……)」


 ワルツたちが作ろうとしているものに興味を持ったのだ。


 ホームルームもとい、オリエンテーションの説明が終わった後、特別教室のメンバーたちはそれぞれのグループに分かれて行動を始めた。24人のクラスは、6グループに分かれ、内、3グループは大人しく歩いてラニアへと向かい……。そして残る3グループが、移動のための乗り物を作ることにしたようである。言わずもがな、ワルツのグループ、ルシアのグループ、そしてポテンティアのグループだ。


 その内、ハイスピアは、ワルツのグループに目を付けて、彼女たちのモノづくりを観察する事にしたようである。師と仰ぐワルツが何を作ろうとしているのか、大きな興味が湧いたらしい。


 そんな彼女の視線の先にいたワルツは、最初の内、1人で木を切ったり、加工したりして、作業を進めていたようだ。手刀で森の大木を斬るなど、人間業とは言えなかったので、同じグループの3人は呆れて声も出なかったようである。


 しかしその内に、ミレニアが作業に加わり、その後すぐにジャックも加わって……。3人で"車"という乗り物を作っていく。


 ただ、残るラリーだけは、3人の行動に加われなかったのか、少し離れた場所でジッとワルツたちの行動を観察しているようだった。慣れない作業に加わるくらいなら、邪魔にならないところで3人の行動を観察していた方がいい、とラリーが考えていたかどうかは不明だが、彼は何も言わず、しかし視線を外す事なく、ワルツたちの行動を眺めていたようである。具体的にはハイスピアの隣に立って。


 そんなこんなで、作業を始めてから1時間ほどが経った頃。


「とりあえず完成!」


 ワルツ作の6人乗り車両が出来上がった。見た目はそれほど拘っておらず、雰囲気的には、ただの馬車である。


 特徴があるとすれば、馬車に比べて重心が低いことと、木のしなりを上手く利用したサスペンションがついていること、あとは、座席が3列分取り付けられていて、一番先頭の座席にハンドルが取り付けられていること。そしてもう一つ。一般的な馬車にはついていないものがワルツの車両に取り付けられていた。


 タイヤの軸に取り付けられた謎の箱だ。その辺の岩を削り出して作られた箱で、何やら水と薪が入れられるようになっていたようである。……蒸気機関だ。


「おぉ……なんか格好いいな……。で、なんだこれ?」


 ジャックが目をキラキラとさせながら、ワルツに問いかけた。ワルツが蒸気機関を作っている間、彼はずっと興味深げにワルツの作業を眺めていて、何が完成するのかと楽しみにしていたのである。


 対するワルツは、森の中で拾ってきた薪を石の箱に入れながら、ジャックに対しこう答えた。


「まぁ、これが何なのかは、見たらすぐに分かると思うわ?というわけで、この薪に火を付けてもらえるかしら?」


 すると何故か、ジャックもミレニアも黙り込む。そして2人は、お互いに目を向けあった。


「ジャック。出番よ?」


「別に良いけど……お前、魔法科なんだから、火魔法くらい覚えろよな」


「私、火魔法に適正が無いのよ」


「本当かよ……。はぁ、仕方ねぇな」


 というやり取りをした後でジャックが行使した火魔法は——、


   ポフッ……


——小さなマッチに灯る炎くらいの大きさしかなかった。当然、湿った木を燃やすには至らず、すぐに消えてしまう。


「これ、俺の魔法だけじゃ火がつかねぇな。なんか燃えるものはねえか?木の皮とか……」


 と、周囲にいた者に対して問いかけるジャックを前に、ワルツは何故か、ぽかーんと口を開けて固まっていたようだ。そんな彼女の表情の理由が分からず、ジャックは怪訝そうにワルツへと問いかけた。


「ん?どうしたんだ?ワルツ」


「……火魔法って、そんなのだったっけ?」


「あん?火魔法っていったら、普通、こんなもんだろ?」


「…………」


 ワルツはそのまま閉口した。この時、彼女は、初めて気付いたらしい。……自分の周りにいいるミッドエデンの関係者のほぼすべてが、実はトンデモない魔力の持ち主なのではないか、と。

 


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