14.11-12 登校12
ワルツたちに、お互い協力して移動するという選択肢は無かった。ワルツもルシアも空を飛ぶ気は無い上、ポテンティアも元の姿に戻るつもりはなかったのだ。他の学生たちと共に行動する間は、自分たちも可能な限り普通の学生でいよう……。それがワルツたちの基本的なスタンスだった。
……という、有って無いようなスタンスは、教室の掃除箱の横にでも置いておくとして。授業の一環とはいえ、いきなり迷宮探索に出発するよう言われても、クラスメイトたちは皆、戸惑うばかりだった。どの学生にとっても、今回のような突然のイベントは初めてのことだったからだ。
結果、皆、さっそく、それぞれのグループに分かれて、対応を考える事になった。クラス全員で協力して移動手段を考えるという方向に話は進まなかったのは、誰しもが今回の迷宮探査のことをグループ同士の競争だと考えていたからか。
「まずは旅支度が必要よね。移動中の食事の準備も必要だし、武器も持たなきゃ」
「テントや松明とか、野宿の準備もしないと」
「…………」
ワルツたちのグループは、ミレニアとジャックがリードして、準備内容を決めていく。ラリーはだんまりだが、2人の話には耳を傾けているようだ。
一方、ワルツは、ルシアたちと協力すれば、一日で全員が迷宮探査を終えることが出来ると分かっていても、その選択肢は敢えて選ばず……。頭の中で色々と作戦を組み立てていた。
「(行きの片道さえどうにかなれば、帰り道は転移魔法陣を使うことができるのだけれど……)」
転移魔法陣を量産できるようになったワルツにとって、移動時間が掛かるのは往路のみ。いかにして往路を早く移動するかを、ワルツは重点的に考えていく。
「(ルシアに転移魔法で送って貰いたい所だけれど、あの娘もラニアって名前の町の位置なんて知らないから送れないだろうし、ポテンティアに送って貰うっていうのも……そういえば、ポテンティアはどうやって移動するつもりなのかしら……)」
ルシアやポテンティアがいるグループはどうやって移動するのだろう……。ワルツはそんな事を考えながらも、2人に頼らない移動方法を考えていく。
「(ポテンティアは多分、馬車を真似するんでしょうね……。私も乗り物を作ろうかしら?学院じゃ馬車の貸し出しはしないみたいだし……。集団で移動することを考えるなら、やっぱり車よね)」
そんな事を考えたワルツは、ヒッチハイクで移動時間の短縮を狙おうとしていたミレニアたちに対し、こう切り出した。
「うん、車を作りましょ。車を」
「「えっ……車を作る……?」」
「…………?」
グループメンバーの3人共が、何を言っているんだと言わんばかりの視線をワルツへと向ける。
しかし、こういう時に限って、ワルツの人見知りの激しさは炸裂しない。
「だって、移動するのに何日も掛けるとか、時間が勿体ないでしょ。さっさと移動して、さっさと……いえ、今は帰りのことを考えなくてもいいわ。とにかく問題は、行きをどうするかってことよ。その最良の答えが車だと思うのよ」
という、ワルツの発言を聞いて、ルシアやポテンティアたちもそれぞれのグループで話を切り出したようだ。ワルツがどんなものを作るのかを聞いてから、判断することにしていたらしい。まぁ、ここでは、ルシアたちがどんなものを作ろうとしているのかは取り上げないが。
一方、車を知らないミレニアたちは、困惑していたようである。
「車って……あの車?」
「包まって、人が引っ張るやつだよな?あの荷物を載せて運ぶのに使うやつ」
「…………」
疑問の声を上げる3人を前に、ワルツは言った。
「タイヤに動力を付けて勝手に進む車よ?コンロの魔道具を使えば、蒸気機関くらいは作れるわ?……いえ、むしろ、水魔法と火魔法を掛け合わせて、発生した蒸気で進む蒸気タービン推進機関の方が良いのかしら……」
どちらを作るのが早いだろうか……。ワルツは1人、ブツブツと考え込んだようである。
そんな彼女は致命的なことを失念していたようだ。……この世界の大多数の人間は、殆ど魔法を使うことが出来ず、その上、強い魔法ともなれば、まったく使えないということを……。




