14.11-10 登校10
「では、くじに書かれている番号同士で集まって下さい」
ハイスピアがそう口にすると、教室の至る所で「1番の人はここ!」「2番の人はこっちね!」といったように、声が上がる。クラスメイトたちが持っていたボールには、数字が書かれていたらしく、次々とグループが出来上がっていった。
ルシアの場合は、偶然にも、テレサと同じグループになっており、見知らぬ騎士科の男子学生と、これまた同じく見知らぬ魔法科の女学生と共に、グループを組むことになったようだ。その他、アステリアも、偶然に、ポテンティアと共にグループを組むことになったようで、彼女たちの場合は男子2人、女子1人、不明1人という、男子が多いのか、そうでないのかよく分からないグループ構成になった様子だ。
そしてワルツの場合。
「……あの、ハイスピア先生?何も書いていないんですけど……」
真っさらのボールを手にしたワルツは、1人だけどこのグループにも属せないでいた。まぁ、クラスの人数は4人で割り切れる24人だったので、3人グループのところに所属すればいいというのは明白なのだが。
「あれ?おかしいですね。壊れたかな……。えっと、人が足りないグループは——」
ハイスピアが辺りを見回すと、ちょうど3人グループと目が合う。
「あぁ、ミレニアさんたちの所ですね」
「ミレニアさんのところ……」
まぁ、見知らぬ学生たちとグループを組むよりは良いだろうか……。ワルツはそんなことを考えながら後ろを振り向いた。するとそこには、見知ったミレニアと、これまた見知ったジャック、そして見知らぬ男子学生の合計3人が、なんとも複雑そうな表情を浮かべながらワルツの方を向いていたようだ。3人とも、ワルツが手にしたボールに文字が書かれていないことは知らず、なぜワルツがすぐにグループ分けに参加しないのか、疑問に思っている様子だ。ちなみに番号はゼロ番である。
対するワルツは何も書かれていないボールに視線を落としながら、事情を説明すべきかで悩んだようだが、イレギュラーな出来事の説明を説明したところで納得して貰うのは難しいと思ったらしく、手短な謝罪だけを口にしながら、3人のグループと合流した。合流先のグループの構成メンバーの内2人が顔見知りだったことも、説明しなかった理由だったようだ。
「ごめん。ちょっとボールに不具合があって手間取っちゃったわ」
ワルツがそう口にすると、少なくともミレニアは特に何も思っていなかったらしく、笑顔でワルツの事を出迎えた。
「まさか、ワルツさんと同じグループになるなんて思いませんでした。よろしくお願いします」
「えっと、こちらこそよろしくお願いします?」
ワルツがそう口にすると、ジャックも「よろしくな!」と返答をして、そして見知らぬ男子学生も「……よろしく」と短く答えた。ジャックの場合は、ミレニアと同じく、ある程度、ワルツの事を知っているので、特別な反応を見せていたわけではないのだが……。もう一人の男子学生の方は、ワルツの事をあまり知らなかったせいか、どこか彼女に警戒しているようで、まるで彼女の様子を伺うような素振りを見せていたようである。
対するワルツは、基本的に人見知りが激しいこともあり、男子学生のみならず、ミレニアやジャックの前でもぎこちない笑みを見せていたようである。彼女の性格的に、いきなりフレンドリーに接するというのは難しかったのだ。
ただ、幸いと言うべきか、ミレニアは性格的にぐいぐいと皆を引っ張っていく人物だったので、ワルツの引き攣った笑みを見ても、あまり気にする事なく、自己紹介を始めた。
「まずはお互いに自己紹介をしましょ?皆、知ってるかも知れないけど、私はミレニア。魔法科の所属よ?」
するとジャックが次に口を開く。
「俺のことも皆知ってるかも知れないが、俺はジャック。騎士科の所属だ。ここで趣味まで言った方が良いのか?」
「いや、時間が長くなるから、後にしましょ?」
「それもそうか。じゃぁ、次——」
そう言ってジャックが視線を向けたのは、ワルツの知らない男子学生の方だった。ただ、ジャックとミレニアは彼のことを知っていて、また、男子学生の方も2人の事は知っていたようである。
「……ラリーだ」
「お前、自己紹介が身近すぎじゃね?」
「……騎士科だ」
「やっぱ、短えな」
ジャックがツッコミを入れると、男子学生ラリーは、不満げに目を細めた。それでも何も言い返さないのは、元々寡黙なせいなのかも知れない。
そして、ワルツの番がやってきた。彼女は3人の紹介が進んでいる間も、自分の自己紹介について悩んでいたようだが、意を決したようにコクリと頷くと、口を開こうとして——、
「わたs——」
「では、クジを回収するので、皆さん、箱の中に戻して下さい」
——そんなハイスピアの言葉に邪魔されてしまったのである。




