14.11-09 登校9
「4人に別れて下さい」
「ちょっ……」
なぜ5人ではなく、4人なのか……。ワルツはハイスピアの決定に悪意のようなものを感じた。というのも、普段、彼女たちが共に行動しているメンバーは5人。つまり、1人は、確実に別のグループに分かれてしまうことになるからだ。
実際、ハイスピアも、それを理解した上で、あえて4人グループを作ろうと考えていたようである。そもそも彼女は、ワルツたちを同じグループにするつもりは無かったようだ。
「……と言ってもすぐには決められないと思いますので、くじ引きで決めたいと思います」コトン
ハイスピアは教卓の下から、何やら箱を取り出した。この国において紙はそれなりに高級品だったこともあり、組み合わせの文字が書かれている紙が箱の中に入っている、というわけではなさそうだった。コツコツという音が聞こえていたところを見るに、小石か何かが入っているらしい。
そんな謎の箱について、ハイスピアが説明した。
「この箱は少し特殊な魔道具で、1グループの中に、薬学科、騎士科、魔法科の学生がそれぞれ最低1人ずつは選ばれる仕組みになっています。残る1人についてはランダムに決められるというもので……って、説明しなくても、皆さん、ご存じですよね?」
「(いや、知らないんだけど……)」
ワルツは思わずツッコミを入れそうになるが、少なくともミレニアやジャックたちに何かを言いたげな雰囲気は無かったためか、大人しく言葉を飲み込んだようである。班決めをするときなどに使う魔道具なのだろう……。ワルツはそんな予想を立てたようだ。
「(随分ニッチな魔道具ね……)」
わざわざ魔道具として作る必要はあるのだろうか……。ワルツは疑問に思うのだが、箱の中から取り出されたものを見て、次第に納得していく。
「では、アステリアさん、アニタさん、アレックス君、アンドレ君、アンナさん——」
「(……イニシャルがAの人、多すぎない?っていうか、アステリア、あの箱の使い方を知ってるの?)」
真っ先に呼ばれたアステリアが迷うこと無く箱に手を入れている様子を眺めながら、ワルツがクラスメイトたちの行動を観察していると、皆、箱の中から、黒いボールのようなものを取り出しているようだった。そこには文字が書かれていて、その文字の組み合わせてグループ分けが決まるようだ。もしかすると、レストフェン大公国においては、ごく普通に使われているものなのかもしれない。
「(まるでどこかの宝くじみたいね……。もしかして最初はそのために作られた道具だったりする……のかしら?まぁ、需要はありそうだけど、でも高そうね……)」
細かな設定が出来て、その上、安ければ、まぁ、売れないことは無いのだろう……。そんなことを考えていると、テレサが呼ばれ、ポテンティアが呼ばれ、ルシアが呼ばれ、そして——、
「ワルツ先生」
——最後の最後にワルツの名前が呼ばれた。
「……いや、ハイスピア先生?私、生徒……」
生徒なのだから、先生と呼ぶのは止めてほしい……。ワルツがそんな副音声を乗せて抗議すると、ハイスピアはニッコリと笑みを見せながら返答する。
「ご安心下さい、ワルツ先生。ちゃんと先生の授業もカリキュラムとして用意しておりますので」
「……は?」
「ワルツ先生が授業をされる際、私は生徒に戻る所存です!」
「…………」
この教師は何を言っているのか……。ハイスピアの発言が理解出来ず、色々と諦めた様子のワルツは、皆の視線が自分に向けられていることを感じながらも、くじ引きの魔道具の前に立った。もちろん、クラスメイトたちの方は見ない。ジィッとくじ引きの魔道具だけを見つめたまま、ボールを取ろうと手を伸ばす。
「(さて、何が出るのかしら?)」
ワルツは心配を抱えながらも、少しだけ心のどこかで期待もしていたようである。彼女にとって、見知らぬ生徒たちと共に授業を受けるというのは人生で初めての出来事なのだ。きっと予想だにしない出来事が起きるはず……。たとえ人見知りが激しくとも、そんな期待を抱いてしまうのは自然な事だったのだ。
そして実際、予想だにしない出来事が起こる。
「……って、ボールの残りは1個じゃん。まぁ、当然だけど……」
と言いながら手に取ったワルツのボールには——、
「(ん?何も書いてない……?)」
——他のクライスメイトたちが持っているボールには書かれている文字が、どこにも書かれていなかったのである。
……という経験が妾にもよくあるのじゃ。
どうしてかのう……・




