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14.11-08 登校8

 心の準備が出来ない状態で、見知らぬ生徒たちと共に授業を受けることになったワルツは、やはりすぐには現実を受け入れられない様子だった。学校に通うことを考えるなら当然の事だが、想像するのと、実際に体験するのとでは、まるで別物。特に、自分のペースに関係無く質問攻めにされるなど、想定していない事だったのだ。


 一方、ワルツが豆鉄砲を食らったハトのような表情を浮かべていることには、担任教師であるハイスピアも気付いていたようである。ただ、彼女には、ワルツがなぜ放心しているのかの理由までは分かっていなかった。


 というのも、普段のワルツは、明朗快活にクラスメイトの皆と接しており、ハイスピアに対しても授業を行っているという、とても明るい少女だからだ。しかも、ワルツはミッドエデンで相当な立場にある人物であり、不特定多数の人々と接している"はず"なのである。ちょっとクラスメイトの数が増えただけで、ワルツの心的負担が格段に上がってしまうなど、ハイスピアには理解出来るはずがなかったのだ。


 しかし、ハイスピアも教師であり、それなりに生徒たちの反応を見てきた経験があったので、今のワルツがどんな精神状態にあるのかは、なんとなく察することが出来たようである。そしてこれまでと今日の違いは、今日が他の生徒たちとの初顔合わせの日であること。そこから導き出される答えが何なのか、ハイスピアが辿り着くのは造作も無い事だった。


「(まさかとは思いますが……もしかしてワルツ先生は、心がとても弱い……のですか?)」


 ハイスピアは、確証はなかったものの、ほぼ確信した。なにしろ、ハイスピア自身も、あまり人付き合いを得意としないタイプだったからだ。


 幸い、彼女は、現状のワルツのことを救う手立てを持ち合わせていたようである。新しいクラスメンバーで授業を受けることになった時、なかなか馴染めない生徒が稀にいる事を知っていたので、皆のわだかまりが解けるような授業を企画していたのである。いわゆるオリエンテーションだ。


「さて……それでは、最初の授業を始めようと思います」


 ハイスピアは用意したシナリオどおりに、授業を始めた。


「これから皆さんには、迷宮に行って、指定された魔石を取ってきて貰おうと思います」


 そんなハイスピアの発言に、驚きの声があちらこちらで上がる。


「せ、先生!それはあまりに危険ではありませんか?!」


 最初にハイスピアに疑問をぶつけたのはミレニアだ。彼女が疑問を口にした瞬間、教室の中がシーンと静まりかえる。


「本来、迷宮探査の授業が始まるのは、中等学部からのはずです。魔物との戦闘経験の浅い初等科の生徒が迷宮を探索するなど、自殺行為だと考えます!」


 そんなミレニアの発言に、魔法科の生徒と薬学科の生徒が、コクコクと頷く。例外は、元騎士科の生徒くらいのものだが、彼らは彼らで魔物の恐ろしさを知っていたためか、ミレニアの発言を否定するような事はしなかった。


 ちなみに、特別教室では、科に関係無く、"優秀"という条件で生徒が集められていたものの、科の所属が無くなったというわけではない。飽くまで優秀な生徒を集めたというだけであり、授業やテストの際には、それぞれの科に別れて実施される予定である。まぁ、その例外として、今回のような迷宮探索、もとい合同演習が企画されているのだが……。


 まぁ、それはさておき。


「すばらしい質問です。ミレニアさん。確かに、迷宮探索には危険が伴います」


 ハイスピアはミレニアの問いかけに対して、コクリと頷いてからこう返答した。


「皆さんは迷宮に行っても自分の力を過信しない考えを持ち合わせていると考えています。だからこそ、オリエンテーションの授業として迷宮探索を選んだのです。課題自体は何も難しいものではありません。表層には魔物しか住んでいない迷宮の1階部分で魔石を採取して戻ってくるだけです。もしもそこに危険があるとすれば……私たち教師の忠告を無視して、表層よりも深い階層に足を踏み入れた場合です。優秀な皆さんなら、自らの力を過信して、過度の危険を冒すような真似はしないと信じています」


 ハイスピアがそう口にすると、ミレニアは不満げながらも席に着いた。彼女は論理的に考えたのだ。……自分が無理をしないことはもちろんのこと、他のクラスメイトたちも選抜された"優秀"な学生なのだから、皆、分別がついた行動をするはず。ならば、自分が皆の心配をするというのは失礼に当たるのではないか、と。


 そんな一悶着がありつつも、特別教室の学生たちは、迷宮に向かって出発することになった。しかし、その前に、お約束とも言える出来事が一同のことを待っていたようである。


「では、短いながらも旅をするにあたり、ここで班分けをしてもらいます。4人に別れて下さい。迷宮の探査を行う際も、4人で(おこな)って貰います」


 グループ分けだ。

身内と言えるのは、ワルツ、ア嬢、妾、ポテ、そしてアステリアの5人。

しかし、グループは4人組。

……あとは分かるじゃろ?

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