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14.11-07 登校7

 そして、教室の中が見知らぬ生徒たちで半分ほど集まった頃。


「みなさん、おはようございます」


 ハイスピアが再び教室へと戻ってきた。そんな彼女の傍らにマリアンヌの姿が無かったところを見るに、今頃マリアンヌは、一人だけで入学試験を受けているのだろう。


 しかし、ワルツたちにマリアンヌのことを慮る余裕は無かった。そればかりか、彼女たちは、ハイスピアが教室に戻ってきたことにすら気付いていない様子だった。


 ワルツたちは、普段から、生徒たちの間で所謂浮いている状態で、クラスメイト以外の生徒たちとは殆ど会話をしてこなかったのである。にもかかわらず、今の彼女たちは、見知らぬ生徒たちに半ば取り囲まれるような状況。ルシアたちのように殆ど見た目が人と変わらないタイプの獣人たちや、明らかに入学の年齢に達していなさそうなワルツなど、今までワルツたちと接してこなかった生徒たちにとっては、話題が尽きない者たちばかりが教室内にいるように見えていたらしく、ワルツたちに好奇の目が集まっていたのだ。


 そんな教室の中には、陣形のようなものができあがっていた。ワルツを守るようにして、彼女の周りにルシアなどいつものメンバーが取り囲み、そこにミレニアやジャックなども加わって、遠慮なく質問攻めにしてくる学生たちの接近を阻止するという、攻防の陣形だ。


 その中心にいて、皆に守られているというのに、ワルツは不安そうな表情を浮かべていたようである。悪意無く近付いてくる者たちに対して、どう接して良いのか分からなかったのだ。


 今までワルツは、気に入った相手や、用事がある相手に対しては、自ら話しかけてきた。ルシアたちがその例だ。


 だが、興味を持たれて話しかけてくる——それも、単に興味本位での声かけというのは、ワルツとしてはあまり前例が無く、どう扱って良いのか判断が付けられなかったらしい。


「(学校で友達を作るのって、こんな感じなのかしら……。なんていうか……すごく対応に困るわね……)」


 問いかけられた事に対して返答することは出来るが、相手に何を問いかけて良いのか分からない……。そもそも、質問を返すことが正しい事なのかすら、ワルツには分からない事だった。なにしろ、ワルツは今、四方八方から質問攻めに遭っている状況で、少々辟易していたのである。自分がそう感じていることを相手にぶつけても良いのかと疑問を感じるのは自然な事だと言えるだろう。そのせいで、ワルツは、ただただ黙り込むことしかできなかったのである。


 その様子を見ていたルシアたちは、ワルツが皆からの質問攻めを嫌がっていると考えていたようである。とはいえ、彼女たちもワルツと同様に、悪意の無い者たちを無碍に追い払うというのも如何なものかと思っていたらしく、強硬な態度に出ることは出来ず……。場当たり的に返答だけして、はぐらかす事しか出来なかったようである。


 いったいいつまでこの状況は続くのだろうか……。少なくない者たちがそんな事を考え始めたとき、ハイスピアから声が掛かった。


「ほら、皆さん?ホームルームを始めますよ?自分の席に戻って下さい」パンパン


 手にした学級名簿を手で叩きながら、注目を集めようとするハイスピア。すると、ワルツたちの周囲に出来ていた人だかりが霧散し、それぞれ好きな座席へと散らばっていった。


 そのおかげで、人だかりだった場所から、疲れ切った様子のワルツたちと、彼女たちを守ろうとしていたミレニアとジャック、それにポテンティアが顔を見せる。中でもワルツは特にゲッソリとした表情を見せていて……。ハイスピアが戻ってきた気付いた彼女は、恨めしそうな視線をハイスピアへと向けながら、ここまで抱いてきた疑問を彼女へとぶつけた。


「……ハイスピア先生。私たちの教室、どこですか?」


 特別教室に()()というのは、具体的にどこの教室のことなのか……。そんな副音声を疑問に込めながら、ワルツが問いかけると、ハイスピアからは意外な返答が戻ってきた。いや、むしろ、想像していた通りの返答だった、と言うべきか。


「あぁ、言っていませんでしたか。ここです」


「こ、ここ……」


「はい、ここです。クラスメンバー全員が特別教室に選抜されたので、この教室を使うのがちょうど良かったのです」


「……なるほど。どおりで……」


 見知らぬ生徒たちが、戸惑う様子無く、この教室にやって来るわけだ……。ワルツだけでなく他のメンバーたちも、合点がいった様子だった。それでも皆の表情が優れなかったのは、これから先で起こる出来事を想像してしまったためか。

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