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14.11-05 登校5

「……私が考える"惰眠"と、ワルツ様が考えていらっしゃる"惰眠"とが同じかは存じ上げませんが——」


 マリアンヌはそんな前置きを口にしてから、自分の考える惰眠について話し始めた。


「眠くもなければ、寝る必要も無いのに、でも寝なければならないという状況が……惰眠だと思いますわ?」


 そんなマリアンヌの言葉に、ワルツが眉を顰める。


「それって……眠ることを強要されているってこと?」


「似たようなものかも知れませんわね……。馬車の旅などで、やることがなさ過ぎるのに、でも到着するには何日も時間が掛かる場合、とか。あれ、とても辛いですわ。寝なければ馬車酔いが酷いですけれど、気持ちが悪くてずっと寝ていると、いい加減、寝られなくなってきますもの」


「なんか、それ、生々しい話ね……。惰眠って言うか、拷問?」


「なるほど……。もしエムリンザに戻ることがありましたら、拷問の方法として取り入れようと思いますわ?十分に寝かせた者を、馬車や船に乗せるという拷問を。……エグいですわね……」


「いやいや、惰眠を拷問に取り入れるって……新しすぎるでしょ」


 そもそも、乗り物酔いをしない者にとっては、ただただ暇なだけなのではないか……。マリアンヌの話を聞いていた者たち全員が、同じようなことを考えたらしく、皆、微妙そうな表情を浮かべていたようだ。


 そんな中、アステリアが口を開ける。


「惰眠って、もっと幸せなものかと思っていたのですが、たしかにずっと続けろと言われれば拷問かも知れませんね……。たとえ乗り物に乗らなかったとしても……」


 アステリアの呟きに、マリアンヌが反応する。


「あぁ、でも、そうとも限らないかも知れませんわよ?お腹いっぱい食べたら、眠くなりますわよね?あれを繰り返せば、眠ること自体は可能ですもの。ただ、増えてはいけないものが、スゴい勢いで増えていきますけれどね……」


「「「…………」」


 マリアンヌの言葉に、アステリア、ルシア、テレサの3人が黙り込む。食べて寝てを繰り返す事で増えるものが何なのかを瞬時に把握したらしい。ワルツとポテンティアは、身体のつくり的に無縁の現象だったが、食っちゃ寝を繰り返していればどうなるのかは簡単に想像出来たらしく——、


「まさに脂肪フラグね」

『ぶくぶく行っちゃいますね!』


——などと、人ごとのように結末を口にしていたようである。


  ◇


 そして一行は、村から真っ直ぐに伸びる陸橋を登りきり、学院へと到着した。学院も村と同じく変わった様子は何も無く、普段通りに生徒たちの喧噪に包まれている様子だった。


 教室に入ったワルツたちは、教師のハイスピアが来るまでの間、教室の中で雑談をしながら待っていた。ここまでは普段通り。何も変わったことはない。


 しかし、今日この日は、ここからの展開が大きく異なっていたようである。


   ガラガラガラ……


「……皆さん、おはようございます」げっそり


「あれ?先生、早いですね」


 授業の開始時間までは、まだ30分以上あるというのに、ハイスピアが教室に現れたのだ。


 それ自体は変わった事でもなんでもなく、"普段"の延長線にある出来事だと言えた。しかし、彼女の口から出てきた言葉は、"普段"とは大きく異なるものだった。


「皆さんには今日から、優秀な生徒たちばかりが集まる"特別教室"で授業を受けて貰います」


「「「「『えっ』」」」」


「学院長が、皆さんの学力なら、特別教室での授業にも十分について行けると判断したんです。……と言うか、私が特別教室の担任になってしまったんですよ。意味が分かりませんよね……」げっそり


 ハイスピアがゲッソリしていたのは、特別教室の担任に抜擢されて、仕事量が劇的に増えてしまった結果だったらしい。


 対する生徒たちは、そんなハイスピアの様子に気付くことなく、それぞれ驚きの言葉を口にする。


「えっ……私たち、テストで赤点を取っちゃったのに?」

「あぁ……道徳のテストは厳しかったのじゃ……。次回受けて、合格点を取れる自信が無いのじゃ……」

「特別……教室……?」

『マリアンヌさんはご存じないかと思いますので、補足しますと——』

「優等生……」キラキラ


 皆、困惑の色(?)を表情に浮かべている中、ワルツが手を上げる、


「ハイスピア先生。質問、よろしいですか?」


 ワルツに、皆の視線が集まる。ワルツが皆の懸念を代弁してくれるものだと思ったのだ。……何かの手違いなのではないか、という質問を。


 そしてワルツは言った。


「それって……つまり……この教室にいる皆とは別の、見ず知らずの生徒たちと一緒に授業を受けなければならない、ってことですか?……本当に?」


 その瞬間、ルシアたちは頭を抱えた。彼女たちはこう口にしたかったに違いない。……ワルツはいったいどれだけ人見知りが激しいというのか、と。


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