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14.11-04 登校4

 外に出たワルツたちが見たのは、普段と変わらない村の景色だった。何か変わった事があるわけでもない普通の景色だったのだが、その様子を見たアステリアは、目を細めると、感慨深げに呟いた。


「平和って……素晴らしいですね」


 昨日の夕方から夜に掛けて、一行は公都に赴き、町を陣取っていた敵対勢力をごく短時間の内に制圧してしまったのである。アステリアたちが到着した時には、既に事が済んでいた、と言っても良い状況だったが、それでも、敵地に乗り込み、そして相手を服従させるという行為は、争いごとに慣れていなかったアステリアにとっては、胃がすり減るようなストレスを感じてしまうものだったのだ。


 それゆえか、彼女は妙な不安に囚われていたようだ。……もしかすると兵士たちが報復をするために、村を襲いにやってくるのではないか、と。こうして朝になって村に出てきたら、村が廃墟に変わってしまっているのではないか、と……。


 しかし実際にはそんなことはなく、村はいつも通りの朝を迎えていた。当然、兵士たちが入り込んで隠れているなどということもない。なにしろ、森の中にあるこの村は、常にポテンティアの分体たちによって守られているからだ。


『えぇ、平和というのは素晴らしいことです。変わり映えのしない日常に不満を感じる方もいらっしゃるようですが、美味しいご飯を食べて、友人たちと楽しく会話をして、そして日向ぼっこをしながら惰眠を貪れることほど幸せな事はありません』


 と、口にしたのはポテンティアだ。そんな彼が日向ぼっこをしている様子も、惰眠を貪っている様子も誰も見たことがなかったためか、皆が思わず顔を見合わせる。


「……ねぇ、ポテンティア。貴()が昼寝をしている姿なんて見たこと無いんだけど、惰眠なんていつ貪ってるわけ?」


 皆の疑問を代表して、ワルツが問いかける。


 するとポテンティアは、ワルツたちの言わんとしていることを理解したのか、『あぁ、それはですね』と口にして、説明しようとするのだが——、


『『こういうことです』』


——突然、ポテンティアの声が2つに増える。一行が歩いていた道から逸れた森の中から、もう一人ポテンティアが現れたのだ。


『皆様、おはようございます。惰眠担当のポテンティアです』


『……ということです。ちなみに、僕は登校担当のポテンティアです。その他、家の中には、留守番担当の僕がいたり、学院には、学生担当の僕がいたり……まぁ、色々なところで平行して人生を謳歌しているのですよ。いや、まったく、平和というものは良いですね。あ、惰眠担当?もう帰っていいですよ?』


『では、皆様、お休みなさいませ。ふあ〜』がさがさ


 森の中にポテンティア(惰眠担当)が消えていく。これからまた眠るつもりらしい。


 そんなポテンティア(惰眠担当)の後ろ姿に向かって、皆、それぞれ異なる表情を浮かべていたようだが、その中でワルツは、納得できなさそうな反応を見せていた。


「んー、原理は分かったけど、ポテンティアが授業を受けているときに、別のポテンティアが寝ていても、睡眠は摂れているって言えるの?結局、寝てない……っていうか、そもそも、マイクロマシンに睡眠なんて関係無いわよね?」


 機械なのだから寝るというのはおかしいのではないか……。そんなワルツの指摘に、ポテンティアが肩を落とす。


『前も言いませんでしたっけ?僕も(エネルギア)も、睡眠は必要です。確かに、ワルツ様が仰る通り……例えば、ポテンティアAが起きている間、別のポテンティアBが寝ていても、ポテンティアAは寝たことにはなりません。しかし、その代わり、ポテンティアAが寝ている間、ポテンティアBは寝ずに活動できます』


「つまり……交代制ってこと?」


『えぇ、まったくその通りです。全体で見れば24時間営業なので』


「それ……惰眠を貪っているんじゃなくて、ただ寝ているだけよね?」


『おや、惰眠ではありませんでしたか。これは失礼。ちなみに、惰眠とはどのようなものなのでしょうか?』


「えっ……私に、それ聞くの?」


 ワルツはそう言いながら悩んでしまう。自分は寝ることが無いので、そもそも惰眠とは無縁だからだ。


 結果、彼女は周囲を見回すのだが、ルシアにしても、テレサにしても、あるいはアステリアにしても惰眠を貪るような生活とは無関係だったためか、皆、難しい表情を浮かべて、惰眠が何たるかを考えていたようである。


 そんな中で、ワルツは、唯一惰眠のことを知っていそうな人物に思い至る。


「ねぇ、マリアンヌ。貴女なら惰眠がどんなものかって、分かるんじゃない?」


 マリアンヌは一国の姫なのである。つまり、我が儘が言えるのだから、所謂惰眠というものを経験したことがあるのではないか……。そんな事を考えたらしい。


 そんなワルツの質問に対するマリアンヌの反応は——、


「惰眠……ですか……」ずーん


——何故かどんよりと暗いものだった。


惰眠という言葉をよく聞くものの、ちゃんと考えてみると、惰眠を貪るというのは中々に難しいことなのではないかと思うのじゃ。

土日などで昼過ぎまで寝るというのは、結局、平日に寝不足状態が続いて、睡眠負債が溜まっておる結果じゃからのう。


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