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14.10-32 迷い5

 そんなこんなで、ジョセフィーヌは、公都へと数週間ぶりに戻ってきた。夕暮れの闇の中でポテンティアが着陸した際、公都の前には、反乱を起こした貴族や兵士たちだけでなく、老若男女の市民たちがずらりと並んでいて……。ポテンティアのタラップの上に立ったジョセフィーヌのことを出迎えるかのようだった。


 ちなみに、彼らはジョセフィーヌのことを待っていたわけではない。1時間ほど前、ルシアたちが公都を強襲(?)した際に、彼女たちから町の外に出てくるよう脅されていたので、仕方なく立っていただけである。


 そのためか、ポテンティアから降りてきたジョセフィーヌのことを見た市民たちは、かなりの人数が驚いている様子だった。まさか、得体の知れない真っ黒な乗り物から自分たちの国の大公が降りてくるとは思っていなかったのだ。


 ただ、それは半分ほどの者たちの話。残りの者たちは、ジョセフィーヌに対して驚いているのではなく、夕闇の中でコンサート会場のごとくバンッと一斉にジョセフィーヌのことをライトアップさせたポテンティアの方に驚いていたようである。いったいどういう仕組みで照らし出しているのか……。なぜ一気にライトアップする必要があったのか……。冷静に考える者たちは少なからずいたようだ。


 そんな人々の前に一人立つことになったジョセフィーヌは、正直なところ、戸惑いで頭が真っ白になっていたようである。一応、ワルツからは、市民に呼びかける機会を用意する、などと言われていたものの、現状は完全に想定外。暗闇の中で、一人だけスポットライトを浴びて、皆からの視線を一手に集めるなど、この異世界においては、まずあり得ない状況だった。


 しかし、彼女は立ち止まらずに、前へと進んだ。


「……皆の者!良く集まってくれた!!」


 彼女はレストフェン大公国の大公ジョセフィーヌ。一国の主なのである。ワルツたちとは異なり、生まれながらにしての政治家なのだ。突然の、そして予想だにしていない場所での演説であっても、彼女にとっては普段の演説と同じ。舞台とスポットライトを半ば無茶振りという形で宛がわれたジョセフィーヌは、しかしその状況を上手くいかして、人々に語りかけ始めた。


  ◇


 一方、ジョセフィーヌの演説を端から見ていたワルツたちは、ぽかーんと口を開けていたようである。ただし、呆れていたのではない。感心していたのだ。


「流石、ジョセフィーヌ。私じゃあんな状況で演説しろなんて言われたら、なんか適当に事件を起こして、どさくさに紛れて逃げちゃうわ」


「えっと……お姉ちゃん?ジョセフィーヌさんに演説するように言ったのも、あんな感じでスポットライトを浴びせるように手配したのも、お姉ちゃんだよね?」


「……ルシア。あれは、ジョセフィーヌだから出来ると思って準備したのよ?私が演説することになったなら、もっと別のシチュエーションを設定するわ?」


「あ、うん……」


 ルシアは短く相づちを打って口を閉ざした。姉の返答が何となく想像できていたらしい。


 対するワルツは、妹から向けられた残念なものを見るかのような視線を前に居たたまれない気持ちになってきたのか、少し慌てた様子でテレサへと話を振る。


「テ、テレサも、流石にあんな感じの演説をしなきゃならなくなったら、逃げちゃうんじゃない?」


 どうやらワルツは、へたれ仲間(?)を探そうとしているらしい。


 対するテレサは、「ふむ……」と考え込んだ後で、首を横に振って否定した。


「たしかに、あのような状況の中で演説するというのは胃に来るものがあると思うのじゃが、妾には逃げるような力はないゆえ、逃げようとはしないのじゃ。妾がやるなら……演説せずに、皆を言霊魔法で洗脳してしまうかのう」


「「もっとダメじゃん」」


 姉と妹の声が重なる。


 それを受けたテレサは、ムッとした表情を浮かべると、ルシアに向かって問いかけた。


「では、ア嬢はどうなのじゃ?同じ状況の中で、面白い冗談の一つでも言えるのかの?」


 テレサとしては、ルシアに突っ込まれたことが心外だったらしい。


 そんなテレサにジト目を向けられたルシアは、こう言ってのけた。


「冗談は言えないかも知れないけど、私はそのまま喋るかなぁ……。文句を言ってる人がいれば、黙らせれば良いだけだし……。分かるでしょ?テレサちゃん」


「…………」


 テレサは猛獣に睨まれた小動物のごとく、ピタリと黙り込んだ。視線も合わせない。ただ嵐が過ぎ去るのを待つだけ、といった様子だ。


 それからも、ルシアの執拗な追求がテレサに襲い掛かるのだが、そんな彼女たちのやり取りを見ていたものの、しかし関わり合おうとは思わなかったのか、距離を取っている者たちがいた。隣国の第一皇女のマリアンヌと、元奴隷のアステリアだ。


 そんな2人はどこか遠い場所を見るかのような視線をジョセフィーヌへと向けながら、それぞれポツリと呟いたようである。


「私は……ワルツ様の意見に賛成ですわね」

「私も……同じです」


 お立ち台とスポットライトを用意され、その上で拡声器を使って演説する……。その光景は、2人にとっても胃が痛くなるような光景だったようである。


喋るだけなら問題無いのじゃがのう……。

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