14.10-32 迷い5
「……ということがあってね?」
「は、はぁ……」
ワルツから改めて説明を受けたジョセフィーヌは、やはりそれでも現状を理解できていない様子だった。証拠も無く、ただ公都を制圧したと言われても、理解する方が難しかったのだ。
というわけで——、
『みなさん酷いですよ。僕だけお仕事。皆さんだけバカンスだなんてー』ぷんすか
——憤るポテンティアに乗って、一行は公都へと行くことになった。なお、ポテンティアは、彼の言葉通り、今日一日中ずっと学院周辺の森の中を巡回していて、休みらしい休みを取れていなかったようである(?)。
まぁ、それはさておき。空飛ぶ戦艦ポテンティアに揺られること約10分。一行は公都が見える場所までやってきた。
空は大部分が茜色に染まっていて、地平線の向こう側からはゆっくりと夜闇が迫る時間帯。そんな夕焼けの中に公都の姿が浮かんでいたわけだが——、
「んなっ……」
——その姿を見たジョセフィーヌは、思わず絶句してしまう。
「なんですか……これ……」
彼女が見たのは、無数のクレーターの中にポツンと建っていた公都の姿だった。町そのものに被害は無さそうに見えるが、高かったはずの城の屋根は何故か短くなっていて……。一定の高さ以上の建物も、まるで何かに押しつぶされたかのように真っ平らになっていたようである。
明らかに異常な何かが公都を襲ったようにしか見えない……。そのありえない光景を目の当たりにしたジョセフィーヌは、ようやく事態を理解した。
「ま、まさかこれを……お二人だけで……?」
ジョセフィーヌはそう口にしながらも、内心のどこかで自分の考えを否定していたようである。地上に広がっていた光景は、もはや人が出来る破壊行為の限界を越えて、自然災害と見紛わんばかりに悲惨なものだったのだ。……もしかしたらこの空中戦艦を使って攻撃したのかも知れない。そう考えれば辻褄が合うのではないか……。そんな現実逃避一歩手前の思考がジョセフィーヌの内心に浮かび上がる。ワルツたちの非常識な行動にすっかりと慣れつつあったはずのジョセフィーヌだったものの、目の前の光景は流石に度を超していて、そう簡単には受け入れられなかったようである。
しかし、その後で、彼女は現実を突きつけられることになった。
「えっと……はい」
「さすがにやり過ぎたと……後悔しておるのじゃ」
ルシアとテレサが、半信半疑のジョセフィーヌの問いかけに首肯したのだ。
「…………」
ジョセフィーヌは再び言葉を失った。思考の半分ほどが、現実逃避の領域に入りかける。
ゆえに、彼女の口からはこんな言葉が漏れた——いや漏れてしまったと言うべきか。
「いったいどうやって……」
「えっ?こうやって?」
ルシアがそう口にした直後、艦橋のモニターの外側に眩い光球が現れる。茜色の空を真っ白に塗りつぶすような眩い光球——ルシアの人工太陽だ。
暴力的な魔力を放ちながら外の景色に現れた人工太陽は、鋭く加速しながら、空に弧を描きつつ、遠くの空へと飛んでいった。具体的には、夜闇に染まりつつあった東側の空の彼方。誰もいない海の上へ、と。
それから間もなくして——、
ピカッ!
——空が昼間と同じ真っ青な色に染まった。むしろ、こう表現すべきだろう。……そこに突然太陽が現れたようだった、と。
「…………」ぽかーん
「あれはちょっと大きめの人工太陽ですけど、あの小さなやつを公都の近くに落としたんですよ?……ちょっとだけ」
「もちろん、人がいないことを確認した上で落としたのじゃ。じゃから、死人は出ておらぬはずなのじゃ?……多分の」
「なんという——」
なんという力なのか……。ジョセフィーヌがそう口にしようとした瞬間——、
ズドォォォォン!!
——突然ポテンティアが揺れて、艦橋のモニターにノイズが走る。
「んなっ?!」
「あぁ、衝撃波です。安心して下さい」
「……ア嬢?デモンストレーションをするには、ちと大きすぎたのではなかろうか?」
「大丈夫だよ。海の上だし」
「なんか危険な粒子が出ておったりするのではなかろうな?」
「危険な粒子?ちょっとなに言ってるか分かんない」
と、海上で爆発した人工太陽について、なんということはない、といった様子で会話をするルシアとテレサ。
そんな2人のやり取りの前で、かろうじて理性を保っていたジョセフィーヌは、この時、改めて考えることになったようだ。……ミッドエデンという国は、本当に何なのだ、と。
多分、神様と呼べる存在がいたなら、真っ先に消される国……ではなかろうか?




