14.10-30 迷い3
町の中から見た人工太陽の姿は、もはやこの世の終わりそのものが訪れたかのようだった。莫大な熱量、莫大な魔力と共に、上昇気流や急激な加熱に伴う建物のきしみ音、さらには原因不明の小さな振動と共に、塵や埃が重力に逆らって空中に浮かぶという謎現象まで生じている状況だったのである。町の人々には、ただ物陰に隠れて震えるしか出来る事はなかったに違いない。
町の中がそんなことになっていると知ってか知らずか、テレサたちは淡々と町の侵略(?)を進めていた。現在のステップは4ステップ中1.5。
『ほれ、魔法よ。消えよ』
人工太陽に向かってテレサが呼びかけた直後——、
シュンッ……
——空に浮かんでいた暴力的な光が嘘のように消えて無くなった。言霊魔法(?)を使ったらしい。その際、テレサがルシアから受けた魔力の大半が失われて、彼女の尻尾が1本を残して消えてしまう。
「前もそうだけどさ……それ、どうやってるの?」
「さぁの?妾にも原理は分からぬ。まぁ、消えるのじゃから良いではないか」
ルシアから魔力の譲渡を受けると、何故か尻尾が増えて、そして魔法を使うと何故か尻尾が消える……。不可解な現象ではあったものの、小さな頃からの体質(?)だったためか、テレサは深く考えていない様子だ。
そんな彼女は、尻尾のことなど忘れるかのように、町の方へと視線を向けた。その視線の先にあった王城の屋根は、ルシアの魔法のせいか、黒く焦げていたようである。その他、高い建物の屋根からは、ぽろぽろと小さな破片が崩れ落ちていて、町自体が相応のダメージを負っている様子が見て取れたようだ。
その様子を見て、テレサは少し不安になる。
「やり過ぎたかのう……」
「えっ……」
「まぁ、あの程度で死人は出ておらぬじゃろ。火事にもなっておらぬようじゃからのう」
と言って腕を組むテレサに対し、ルシアが問いかける。
「まぁ、調整したしね。で、次は?」
対するテレサは、短くこう言った。
「待つ」
「待つ?」
「公都攻略のステップ3は、ただ待つだけなのじゃ。ステップ1で降伏勧告をして、ステップ2で圧倒的な力を見せつけて脅し、ステップ3で相手の出方を待って、ステップ4で降伏に同意させる……という作戦なのじゃ」
「ふーん……。じゃぁ、町の人たちが外に出てこなかったら?」
「いやー、出てくるじゃろ」
「(テレサちゃんって、やっぱりちょっと適当だよね……お姉ちゃんみたいに)」
大口を叩いた割には、作戦の内容が稚拙なのではないか……。そんな事を考えながらも、ルシアは公都の人々の反応を待った。
その隣で、テレサも一緒に待っていたわけだが、時間が経過すると共に、彼女の表情には暗雲が立ちこめていく。ルシアに指摘されたとおり、町の人々に反応が無かった場合にどうすべきかを考えていなかったからだ。
「出てこないね?」
「お、おかしいのう……」
「どうする?」
「もう一発放って、様子を見るかの?今度はもう少し近づけても良いかも知れぬ」
「数を増やしたら?」
「あぁ、それも良いかも知れぬのう」
というわけで。再びテレサに魔力の充填をして、彼女の鼻血をもう一度再現した後。
「それじゃぁ——」ドゴォォォォォッ
ルシアはフレアを追加で99個ほど空に浮かべたわけだが——、
「む?あれは白旗かの?」
——ようやく公都の方で変化が生じた。
「えっ?どこ?」
「ほら、あれなのじゃ」
「んん?無く無い?」
「ふむ……もしかすると、カーテンだったかも知れぬ」
「「……まぁ、いいか」」
……公都の方で変化が生じたように見えたが、気のせいだと思ったらしく、2人は人工太陽の行使を止めようとはしなかった。
「ついでに公都の周りで、人工太陽をブンブンと回してみてはどうかの?」
「なるほどね。なんだったら、1発くらい、町の近くに落としてみる?誰もいないところに落とせば被害は出ないはずだし……」
「うむ。良いのではなかろうか?」
2人の行動は時間と共にエスカレートしていったわけだが、この時、公都では大量の白旗が揚がっていたようである。しかし、2人とも、公都の方を向いておらず……。どこに人工太陽を落とすかという相談をしていたせいか、白旗の存在には気付いていない様子だった。
この時、公都の中では、大混乱が生じていたようである。というのも、彼らは一度、原因不明の大爆発——ようするにルシアの人工太陽の爆発を身近で見たことがあったからだ。初めて公都に訪れた際、ルシアは一度、人工太陽を使っていたのである。その際の記憶を思い出した公都の人々は焦り、逃げ惑い、指揮系統は麻痺し……。結果、テレサが狙ったように、すぐの降伏が出来なかった、というわけだ。
……まぁ、すぐに降伏できたとして、エスカレートする2人の行動を無事に止められたのかは不明だが。




