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14.10-29 迷い2

 ただ、彼女たちが頭を悩ませた時間はそれほど長くなかった。彼女たち——特にルシアは、悩むよりも先に行動するタイプだったからだ。


 というわけで……。


「……ア嬢?お主、まさかとは思うが、妾と2人だけで公都を落とすつもりかの?」


 テレサは思わず確認を取った。というのも、彼女は今、ルシアによって空を運ばれ、公都前までやってきていたからだ。


 対するルシアは、それがさも当然と言わんばかりに首を傾げる。


「出来るよね?」


「出来ると言えば出来るのじゃが……せめて、作戦くらいは考えるべきではなかろうか?妾の言霊魔法を使うにしろ、お主の力でねじ伏せるにしろ……」


「えっ……言霊魔法で良いかなぁ、って思ってたけど?あれを使えば一発だよね?」


「……周りの人間が全員洗脳された人間になったら、気持ち悪くないかの?そんなところにジョセフィーヌ殿を放り込んでも良いのか?」


「まぁ……うん……良くはないね」


 どうやらルシアは、本当に何も考えていなかったらしい。出たとこ勝負。その場の勢いで公都を落とすつもりだったようである。まぁ、実際、出来てしまうのだが。


 対するテレサは、ルシアの考えに呆れながらも、出直す、という選択肢は持っていなかったようである。ワルツたちに相談するという選択肢もあったはずだが、彼女なりに考えて判断し、ワルツとの相談は無くて良いと考えたらしい。


「……ア嬢の魔力を貸してくれるのなら、4ステップで制圧可能なのじゃ。時間にしておよそ15分くらいかのう」


「えっ……そんな簡単にできるの?」


「試してみれば良いのじゃ。試すだけならタダじゃからのう」


「具体的には?」


「まずは、妾の声を風魔法で大きくして、公都全体に聞こえるようにして欲しいのじゃ」


「ふーん……まぁいいけど……」


 作戦の概要を教えて貰えなかったためか、ルシアは納得出来なさそうな様子で、風魔法を行使する。


 それを感じ取ったテレサは、喉の調子を整えてから、大きな声で勧告を始めた。


『あーあーあー……おっほん。我々は、公都から追い出されたジョセフィーヌ=フロイトハート大公閣下の代行として、これよりこの地を制圧する者なのじゃ!町に住む者どもよ!命が惜しくば、即刻武装を放棄し、町の外に整列せよ!』


 テレサはそれだけ言って、口を閉ざした。


 彼女の勧告を聞いていたルシアは、怪訝そうに眉を顰める。


「えっ、それだけ?」


「うむ。最初のステップはこれでお終いなのじゃ。では、次に移ろうかの」


 相手の出方を待つより先に、テレサは次の指示をルシアに伝えた。


「まず、お主の尻尾を妾にモフらせよ」


「……は?」


「これは作戦に必要なことなのじゃ。次のステップは少々複雑ゆえ、妾にも膨大な魔力が必要でのう」


「……単に私の尻尾をモフモフしたいだけじゃないの?えっち」


「いや意味が分からぬ……」


 と、テレサがルシアの発言に頭を抱えていると、言葉とは裏腹に、ルシアがボフッと自身の尻尾をテレサに押しつけてくる。


「モフッ?!」


「早く済ませてよね?こっちだって恥ずかしいんだから」


 ルシアがそう口にして、テレサの顔に尻尾をぐりぐりと押しつけている間にも、テレサへの魔力譲渡が進んでいく。コルテックス製の魔道具の効果だ。デフォルメした悪魔の羽のような、一見するとジョークグッズのような見た目の魔道具で、数週間前に背中に付けられたまま、誰にも取ってもらえない状態が続いていたのである。本人も取れないような絶妙な位置に取り付けられていたのだ。……身体が固いわけではない。


「……まだ?」


「……も、もふっ……」たらー


「うわ、また鼻血が出てるし……」


 魔力の譲渡のせいなのか、単に興奮しているだけなのか、あるいは元々鼻の粘膜が弱いだけなのか……。ルシアが尻尾を退けると、テレサの鼻からは血がしたたり落ちた。その際、テレサの表情は無表情に見えたわけだが、若干、その口許が緩んでいるように見えたのは気のせい、ということにしておこう。


「あ、あぁ……危ない危ない。血で服が汚れるところだったのじゃ。で、次にア嬢は、特大の火魔法を空から公都に向かって降らせて欲しいのじゃ。ゆっくりと、なのじゃ?急に落としたら元も子もないからのう」


「えっ……公都を壊すの?それ、みんな死んじゃうよね?」


「公都に影響が及ぶ前に妾が魔法を消すゆえ、問題は無いのじゃ。魔力を貰ったのは、そのためじゃからのう。ようするに、公都に脅しを掛けたいのじゃ」


「……ただモフりたかっただけじゃないんだ?」


「そ、そんなわけ……なかろう?」


「ああ、そう……」


 否定するテレサを前に、ルシアは何故か残念そうにしゅんとした後……。空に向かって手を掲げた。


 そこには真っ青な空が広がっていて、雲も殆ど無いような良い天気だった。良い昼寝が出来そうな朗らかな天候だ。


 ただし、この瞬間までは、の話だが。


   ドゴォォォォォッ!!


 突如として空が真っ黒に染まる。直視すら出来ないほどの眩く巨大な光球が公都の直上に現れ、相対的に空が暗くなったように見えたのだ。ルシアが得意とする光魔法の中で、もっとも燃費が悪い代わりに、莫大な熱量を発する攻撃魔法——人工太陽(フレア)である。


ア嬢と妾だけで行動すると、大体こうなるのじゃ。

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