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14.10-28 迷い1

 結果的に、ルシアは渋々ながらも、テレサの願いに応えて、要求されたとおりの材料を作った。モノづくりに励むこと自体は問題無いと考えたらしい。問題が起こるとすれば、テレサが作ろうとしている"モノ"が完成した後。その時に、今度こそ自分の手で、テレサの暴挙を抑えることが出来れば、同じ過ちを繰り返す事はないはず……。ルシアはそんな考えに辿り着いたのだ。


「(今度は絶対に止めてみせるんだから!)」ゴゴゴゴゴ


「……ア嬢?何か、身体から染み出しておらぬか?」ぶるっ


「…………気のせいじゃないかなぁ?」


「何故今の回答、溜めがあったのじゃ……」


 ルシアが強い思いを心に決めているとは知らず、テレサは森の中を歩く。


 ルシアが作成した金属塊については、彼女の手により地下空間へと転移魔法で転送済みである。ゆえに、2人は地面を歩いて自宅へと向かっていたわけだが、あと少しで村に着く、といったところで、何やら声が聞こえてきた。


   ザワザワザワ……


「ん?村の人たちがたくさん外に出てる?何かあったのかなぁ?」


「ア嬢の魔力を感じて、出てきたのではなかろうか?」


「…………」じとぉ


「……まぁ、それはないか。なにしろ、ア嬢の魔力は、妾が隠蔽しておるのじゃからのう」


 ではいったいなぜ、村の人々は騒いでいるというのか……。2人は物陰に隠れながら、村人たちの話を聞いた。その際、2人とも、物陰から外へと出ていかなかったのは、ワルツの影響を受けているせいか。


「まさか、隣の村が魔物に襲われるとは……」

「別の村じゃ、魔物じゃなくて、盗賊が襲ってきたって話だよ」

「盗賊じゃなくて、帝国の連中が襲ってきた話も聞いたぞ?」

「この村もそのうち襲われそうだね……」


「……なんか、色々と騒ぎになってるみたいだね」


「話を聞く限り、この村自体に問題は無さそうなのじゃが、隣の村々で問題が起こっておるようじゃのう。……あれかの。政府が不安定ゆえ、治安が悪化しておるのかもしれぬ」


「なるほどね……」


 本来の国家元首たるジョセフィーヌはこの村に滞在していて、この国の政治には現状、関与しておらず……。そして、ジョセフィーヌを追い出した新しい政府の方も、ワルツたちによる嫌がらせ(?)を受けて、ズタズタな状態。今やレストフェン大公国は、不安定極まりないと言える状況で、国内の至る場所に軋みが蓄積しつつあると言えた。


 特に、兵士や騎士などの手が届かない地方部では、急激に治安が悪化しているらしい。安定しているのは、ワルツたちがいる村と学院くらいのもので……。小さな村や街道には、盗賊や魔物たちが跋扈しており、治安は日に日に悪化の一途を辿っていたようである。


 それを知った2人は、原因を考えた。いや、考えてしまった。


「……これってさ」


「う、うむ。ジョセフィーヌ殿をさっさと公都にある元の椅子に戻さぬことが原因じゃろうのう……」


 ジョセフィーヌを公都の外に連れ出して、そのまま彼女のことを元に戻していなかったことが原因だというのは明白だった。


 より具体的な原因を辿るなら、レストフェン大公国の争いごとにミッドエデンが関与すべきではない、というワルツの考えが大きく影響していたのだが——、


「キャラバン隊が盗賊に襲われたんだって?」

「噂だけどな」

「どうなるんだい、この国は……」

「なぜジョセフィーヌ様は帰られないんだ……」


——現状、悠長なことを言っていられるような余裕は無くなりつつあったようだ。刻一刻、時間が経過する度に、どこかで誰かが苦しむことになっているかも知れないのだから。

 

「やっぱり、ジョセフィーヌさんのこと、公都に戻した方が良いのかなぁ?」


「そりゃ、戻せるなら戻した方が良いじゃろ。じゃが、そのためには、反乱を起こしておる者たちをどうにかせねばならぬのじゃ」


「そう……だよね……」


「…………」

「…………」


 ルシアとテレサは、責任を感じたようである。元は、と言えば、ルシアとワルツがジョセフィーヌのことを公都から連れ去ったことがきっかけだったからだ。その際、テレサはいなかったので、彼女は直接関係はしていないのだが、力があるのに問題解決をしようとしないという点においては、責任を感じざるを得なかったようである。


 いまや、力の出し惜しみが出来る時期は、とうに過ぎているのではないか……。ルシアもテレサも、公都があるだろう方向を見つめて、目を細めながら頭を悩ませたようだ。

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