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14.10-27 研究27

 ワルツが王都の町並みを案内している頃。


「お姉ちゃんってさ……結局、人見知りが激しいのかなぁ?激しくないのかなぁ?よく分かんないよね……」


「多分……その時の気分じゃろ」


「やっぱりそうかなぁ……」


 ルシアとテレサの姿は、レストフェン大公国にあった。ワルツについてゾロゾロと移動すると、目立つような気がして、敢えてミッドエデンには帰らなかったのだ。特にテレサの場合は、王都の大多数の人々が顔を知っていることもあり、彼女が同行すると騒ぎになる可能性はかなり高いと言えたので、妥当な選択だったと言えるだろう。


 そんな二人は、当然と言うべきか、自宅でジッと待機していたわけではない。


「というわけで、ア嬢。このリストにある材料を作って欲しいのじゃ」


 テレサが主体となって、何かを作ろうとしていたのだ。場所は、自宅のあった村からほど近い湖の畔だ。


「どれどれ……」ぴらっ「アルミ塊1t、鉄塊2t、オリハルコン100kg……なるほど。また、魔導エンジンを作ろうとしてるんだね?」


「ぐっ……よ、よく分かったのう?」


「そりゃ、これまでテレサちゃんが作ってきたものの材料は、全部私が作ってきたからね。何を作ろうとしてるかなんて、材料を見ればすぐ分かるよ」


「伊達にワルツの妹をしておるわけではないということか……」


「いや、そういうわけじゃないんだけど……」


 ルシアは何故か、はぁ、と溜息を吐いた後で、テレサに対してこう言った。


「作れないことはないけど、正直、あまり作りたくないかなぁ」


「む?作りたくない……じゃと?何故なのじゃ?」


 テレサは以前、ルシアに対し、自分のモノづくりを手伝ってくれるよう、確約を取っていた。それゆえに、ルシアが拒否するというのは、テレサとしては受け入れがたい事だった。


 ルシアももちろん、約束のことは覚えていて、それを守るために湖畔までやってきたのだが、彼女には明確な理由があって、テレサの手伝いを受け入れられなかったようである。


「だって、テレサちゃん。魔導エンジンの爆発に巻き込まれて死んじゃったじゃん」


「うぐっ……」


「なのにまた同じことを繰り返そうとしているんでしょ?それは協力できないよ。だって、何かあった時、私がテレサちゃんのことを……殺したってことになっちゃうもん」


 ルシアの指摘は正論だった。そのせいかテレサは、一時的に言葉を失ってしまう。


 しかし、指摘自体は予想できていたためか、テレサはすぐに反論する。


「……今の妾なら、あのときとは同じ事にはならぬのじゃ」


「そりゃ、火傷とかは負わないかも知れないけど、怪我はするよね?どんな怪我になるかは分からないけど、場合によっては大怪我になるんじゃない?」


「……怪我もせぬよう、今度は特殊な服を着て飛ぶのじゃ」


「エンジンを作るだけじゃなくて、やっぱり飛ぶ気満々なんだ……。一度、本当に死んじゃったのに……」


 ルシアは呆れたようにテレサにジト目を向けた。彼女には理解出来なかった。なぜテレサは命を投げ打ってまで、空を飛びたいと思うのか……。


「空を飛びたいなら、私に言ってくれれば良いのに……」


 そもそも、安全に空を飛びたいのなら、自分やワルツ、あるいはエネルギアやポテンティアたちに頼れば良いのではないか……。そう思うルシアだったものの、テレサの考えは違ったようだ。


「妾は、自分自身の意思で自由に空を飛んでみたいのじゃ。それこそ、自由に空を飛べるのなら、この魂を売り飛ばしても良いほどに……」


「……自由に飛べないから、私たちを頼れない、ってこと?」


「いや、むしろ、頼ろうとしておるではないか?無力な妾には金属を精錬する力もなければ、加工する力も無いのじゃ。すべて他人の力を借りねば出来ぬ事ばかり。ア嬢には、直接飛ぶための力を借りようとはしておらぬかも知れぬが、飛ぶ力を得るための力を借りようとはしておるのじゃ」


「……やっぱり、分かんない。どうしてそこまでして、空を飛びたいと思うの?」


「…………」


 ルシアに問いかけられたテレサは、空を見上げると、そこにあった何かを掴むかのように手を伸ばして……。そして、虚空を掴んで握り締めてから、こう言った。


「妾の心が叫んでおるのじゃ。……空を飛びたい。あの青と赤と白と黒の世界を、思いのままに飛んでみたい、と……。それ以上の理由も、それ以下の理由も無いのじゃ。それが妾の存在意義のようなものなのじゃから……」


 テレサはそう言って腕を下ろした。


 そんな彼女の表情が悲しげだった様子を見たルシアは、心を揺らしたようである。……テレサの希望を叶えるために、力を貸すべきか。それとも、二度と彼女を失わないようにするために、力は貸さぬべきか、と。


 しかし、ルシアの考えは、変わらなかったようだ。彼女はかつて、取り返しのつかない大きな後悔をしたからだ。……自分のせいで、テレサが死んでしまったという後悔を。


「やっぱり——」


 ダメ。そうルシアが口にする直前。テレサが空を見上げて、ポツリと呟いた。


「……妾もア嬢みたいに、自由に空を飛んでみたいのじゃ……」


 その一言を聞いたルシアは、口から出かかっていた言葉を飲み込んだようである。


 そして彼女は考えたようだ。……どうすればテレサを二度を死なせずに済むか。その上で、どうすれば彼女の願いを叶えられるだろうか、と。


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