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14.10-26 研究26

   ヒュゴォォォォ……


「「っ?!」」

「ひえっ……高っ……」


 転移魔法陣を使って、レストフェン大公国の自宅から、ミッドエデンの王城代替施設にやってきたジョセフィーヌとマリアンヌ、それにアステリアは、ワルツに案内されるまま、王城代替施設の屋上へと辿り着く。


 そんな王城代替施設の上から見える景色は、ほぼ快晴という好天。隅々まで王都の景色が一望できた。また、高度がそれなりに高いこともあり、初夏の陽気とは無縁の涼しい風が吹いていたようである。そのせいか、ジョセフィーヌたちは、腰が抜けた様子で、足を竦めてしまっていたようだ。


 それでもジョセフィーヌはどうにか立ち上がる。国家元首として、恥ずかしい姿は見せられないと思ったらしい。彼女はどこかぎこちない様子でワルツの方を振り向くと、震えを隠せない指で、町の方を指差しながら、疑問を口にする。


「こ、これがミッドエデンの王都なのですか?」


 ここまでジョセフィーヌたちは、目隠しをされた状態で連れて来られていた。3人にレストフェン大公国の自宅地下にある工房の存在を知られたくなかったワルツが、目隠しをさせたのだ。目隠しを外したのは、屋上に辿り着いた後。そのせいでジョセフィーヌたちは、余計に大きく驚いてしまったようである。


「えぇ、その通り。ここがミッドエデンの王都よ?いま立っている場所は王城代替施設っていう……まぁ、お城の代わりみたいな建物の屋上部分ね」


「すごい……高いですね……。ちなみに、この町の名前は?」


「えっとね…………なんだっけ……?」


 と、ワルツが王都の名前を思い出そうとしていると、彼女たちの真横で声が上がる。


「んなっ……?!」


 素っ頓狂な声を上げたのはアステリアだ。彼女は完全に腰が抜けた様子でその場にしゃがみ込んでいたのだが、その際、後ろを振り向いて、そこにあったものに気付いたらしい。


 そこにあった——いや浮かんでいたのは、エネルギア級空中戦艦の1番艦【エネルギア】と3番艦【ストレンジア】だった。アステリアはエネルギアを見たことがあったのだが、ストレンジアまでは見たことが無く、2隻の巨大な戦艦が浮いていることに驚いてしまったようである。


 そして何より彼女が驚いたもの。それは、空中戦艦の後ろに聳え立つ超巨大な物体に対してだった。アステリアの声に気付いて同じく後ろを振り向いたマリアンヌが声を上げる。


「な、な、なんですの?!あれは?!樹?!」


 王城代替施設よりも遙かに高く聳え立っていたのは、世界樹の若木だ。以前、ワルツが世界樹の種の扱いを間違え、それが成長してしまったものである。


「あぁ……うん。まぁ、色々あってね……」


 ワルツは遠くを見るような視線を何も無い空間に向けて目を細めた。何か口には言えないことを思い出しているらしい。


 それから彼女は、世界樹について触れる事なく、町の方へと振り返って説明を始める。


「さっきまで私たちがいたレストフェンのある方向は、ここから西の方……ほら、あのV字に割れているように見える山の向こうよ?まぁ正確には、山脈を2つほど越えて、平野を抜けた先にある海を更に越えた先なんだけど……」


 と、ワルツが町の説明を通り越して、レストフェン大公国の位置の説明を始めると、世界樹から視線を戻したジョセフィーヌが、ワルツの説明に相づちを打つ。


「と、途方もない距離のようですね……。距離はどのくらい離れているのですか?」


「それほどでもないわね。んー……大体、惑星1/4周分くらい」


「わ、わくせい1/4……周?」


「あれ?もしかして、レストフェン大公国って天動説が主流だったっけ?まぁ、いいっか。距離にすると大体1万kmくらい」


「い、1万km……」


「1万kmでも分からないか……。身近な者で例えると、レストフェンの学院から公都まで、大体100往復するくらいの距離よ?」


「……やはり、よく分からないです」


 ジョセフィーヌは理解することを諦めた。マリアンヌやアステリアも同じだ。ワルツが見せたり説明したりする事柄すべてが、彼女たちの尺度では測りきれないほど大きく、頭の理解が追いつかなかったのである。ワルツたちの言動に最近ようやくついて行けるようになってきたと考えていた3人は、このとき改めて、自分とワルツたちとの"常識"の違いを思い知ったようである。……彼女たちが生きている世界と、自分たちが生きている世界の間には、海溝よりも深そうな隔たりがあるようだ、と。


「町の説明は……まぁ、いいでしょ。直接行けば」


 ワルツはそう口にすると、3人を手招きした。


「さぁ、行きましょ!こっちよ!」

 

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