14.10-25 研究25
その日、イブは、転移魔法陣を使って、ミッドエデンの自宅に戻っていった。一人では転移魔法陣を使うのは心許ないかもしれないと考えたワルツも同行して、だ。
ワルツとしては、転移した先に、弟のアトラスが待ち構えているのではないかと心配していたようだが、少なくとも彼はその場にいなかったようである。そのおかげで、この日の夜、ワルツは、自分の工房を自由に使うことが出来たようだ。そう、彼女の目的はイブを送ることではなく、ミッドエデンの工房を使うためだったのである。そんなワルツの行動に、イブが呆れているような、あるいは諦めているような表情を浮かべていたのは言うまでもないだろう。
そして次の日の朝。早朝にレストフェン大公国の自宅に帰宅したワルツの事を待ち構えていたのは——、
「あ!ワルツ様!おはようございますかも!」
——1人で転移魔法陣を使って移動してきていたイブだった。彼女は朝から炊事に洗濯、掃除をこなしながら、ワルツの事を待っていたのである。ちなみに、他の住人たちはまだ就寝中だ。
「な、なんでこんな時間から……あぁ、貴女、朝が早かったわね……。じゃなくて、一人で転移魔法陣に乗れたの?!」
「なんか、イブが魔法陣嫌い、って思われてるかもだけど、そんなに怖くはないかもだからね?」
「あ、ああ……そうなんだ……」
転移魔法陣が怖いわけではなかったのか……。ワルツは先日のイブの反応を思い出しながら、内心で首を傾げた。
と、そんな時。
ガチャッ……
「いま帰ったぞ?イブ——って、ワルツじゃないか?!ハハッ!おはよう、ワルツ!久しぶりだな!」
何食わぬ顔で、この家の住人ではない人物が帰宅(?)する。
「か、狩人さん?!なんでここにいるんですか?!」
帰ってきた(?)のは狩人だった。彼女の背中には、大きな麻袋が背負われていて、外から何かを持ち帰ってきた、といった様子だ。何か魔物でも入っているのだろう。
「あぁ、今朝の話だが、日課にしているワルツの工房参りをしていたら、エレベーターの横に見かけない魔法陣を見つけてな?で、乗ったらここに来た、ってわけだ!」
「よく乗ろうと思いましたね……」
「最初は私も悩んだんだよ。もしやこれは罠なんじゃないか、ってな。だけど、よくよく考えてみたら、あんな隅っこに罠なんて作ったところで何の意味もないし、じゃぁ誰が何の目的で作ったんだろうかって改めて考えて……それで、ビビッと来たんだよ。あぁ、これは、ワルツが自分の工房を行き来するために作った抜け穴なんだろうな、って。で、潜ってみたら、案の定、ここについた、ってわけだ。まぁ、イブが掃除をしているのを見たときはちょっと驚いたんだけどな!」ニカッ
「イブも卒倒しそうになったかもだし」
「あ、うん……そうだった……のね……」
完全に自分の思考が読まれている……。ワルツはそのことに気付いて溜息を吐きそうになった。
しかし、彼女の憂鬱はまだ終わらなかった。
ガチャッ……
「……あっ」
ワルツの工房に続く床のハッチが、少しだけ開いて、そこからある人物が顔を覗かせたのだ。
「……もしかして貴女もなの?ユリア」
現れたのはミッドエデン情報局局長のサキュバスであるユリアだった。どうやら彼女も狩人と同じ理由で、転移魔法陣を使ってやってきたようだ。
◇
その後、ミッドエデンにある転移魔法陣の前には、衝立が作られたようである。放っておくと皆何故か、転移魔法陣に乗ろうとするからだ。
だからといって転移魔法陣に乗ろうとする者がいなくなったかというと、そういうわけでもなく……。むしろ、逆に、転移魔法陣が目立つようになってしまったことによって、様々な者たちがレストフェン大公国にいるワルツたちの所へと押し寄せるような結果になってしまったのである。当然の結末だと言えるだろう。
まぁ、それはさておき。
「……ってわけで、ここが私たちの町よ?」
休日最後の日。ワルツはジョセフィーヌたちを連れて、転移魔法陣に乗り、ミッドエデンにある王城代替施設の屋上にやってきていた。せっかく行き来できるようになったのだから、自分たちの町や国を紹介しよう、とワルツは考えたのだ。




