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14.10-24 研究24

 その後、掃除だけでなく、晩ご飯も、イブの手作り料理となった。


「はい、おまちどうかもだし!」ドンッ


 当然、うどんである。


 イブが作る料理と言えば、うどんかパン。ミッドエデン関係者の間では有名な話だ。もちろん、彼女が作る料理はその2種類しかないというわけではないのだが、彼女自身が好んで作る上、美味しいと評判だったので、自然と有名になっていたのである。低所得者に対する炊き出しでも、うどんとパンばかりを提供していたのも、その理由と言えるかも知らない。


 ゆえに、彼女はミッドエデン関係者の間で、こう呼ばれていたりする。……小麦娘、と。


「……ねぇ、イブちゃん」


「うん?何?ルシアちゃん?」


「おつゆとか、小麦とか、出汁とか、どこから持ってきたの?この家には無かったよね?」


 少なくとも、イブが食材をミッドエデンから運んできた形跡は無いはず……。転移魔法陣を使い、同じタイミングで転移してきたルシアとしては納得できなかったようだ。


 そんな彼女の疑問に、イブはシレッとこう答えた。


「うん、無かったかもだよ?だから、イブが持ってるやつを使ったかも!」すっ


 と言って、メイド服のスカート(?)の中から、小麦の袋と、出汁の入った瓶を取り出すイブ。


「え゛っ……なんで持ってるの?っていうか、どこに仕舞ってたの?」


「んとねー、このお洋服ってコルテックス様が作ってくれたかもなんだけど、ここにある隠しポケットって、重さとか大きさとか関係無くなんでも入r——」


「おっと、イブ!メイド服談義はそこまでよ!それ以上は版権に——いや、なんでもないわ……」


 ワルツが何かを察したのか、イブとルシアのやり取りに割り込んだ。理由は不明だ。


 それからワルツは、「さて、食べるわよ。いただきます」と空気を誤魔化すように言ってから、そそくさと食事を始めた。そんな彼女に続いて、他の者たちも食事を始める。


 ただ、ジョセフィーヌとマリアンヌ、そしてアステリアにとっては、うどんを見るのが初めてのことだったらしく、うどんを前に戸惑っていたようだ。黄金色の汁と、そこに沈む純白の麺が入ったどんぶり前に、3人共がシンと黙り込んで、視線を落とす。


 とはいえ、うどんの麺を見たことがなくて警戒していた、というわけではない。イブの料理風景——即ち、本来はパンを作るためにあるはずの小麦をバンバン叩いて、練って、引き延ばして、という行程を、3人共が興味深げに観察していて、一体何が出来るのかと楽しみにしていた結果が、未知のうどんだった、というわけだ。


「……では、私も頂きます」

「頂きますわ」

「い、いただきます……」


 音を立てながらズルズルとうどんを食べるワルツたちに習うように、ジョセフィーヌとマリアンヌ、それにアステリアの3人は、うどんに手を付けた。ちなみに、3人とも箸を使ってうどんを食べ始めたのだが、皆、箸の使い方にはあまり慣れておらず……。つるつると滑るうどんの特性上、掴むのもやっと、といった様子である。


 しかし、どうにか悪戦苦闘を乗り越え……。3人共がうどんを口に放り込んだ。その瞬間——、


「「「?!」」」


——3人の表情が一瞬で切り替わる。その表情は皆同じ。目をカッと見開いて、ピタリと固まったのだ。鼻腔を突き抜ける初めての香り——つまり、出汁に使っている魔カツオ(?)の匂いに、驚きが隠せなかったらしい。


 そしてそのまま3人は——、


   ズルズルズルッ!


——とうどんを口の中に吸い込む。


 その直後、3人の表情にまた別の変化が生じた。具体的には、うどんを噛んだその瞬間だ。うどんが持つしなやかなコシと、決して軟らかすぎないモチモチ感が、彼女たちの口の中で踊り始めたのだ。


 人生で初めて感じるその感触に——、


「「「おいしい!」」」


——3人の表情は溶けるかのようだった。


 その様子を見たイブは、年相応の少女のようにニッと笑みを浮かべていたようである。料理人冥利に尽きる、といった様子だ。


 こうしてイブの存在感は、短時間の内に、ジョセフィーヌたちの記憶の中に刻まれていったのである。


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