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14.10-23 研究23

「「…………」」ぽかーん

「あわわわわ?!わ、私も手伝います!」


「えっ?あぁ、気を遣わなくても大丈夫かもだし。これがイブもお仕事かもだから」


 簡単な自己紹介を終えた後、イブは徐に部屋の中の掃除を始めた。少し散らかっていたのが、イブには気になって仕方がなかったようだ。もはや条件反射と言っても良いかも知れない。


 そんな某国の第一皇女の行動を前に、ジョセフィーヌとマリアンヌは、口を開けたまま固まっていた。皇女の肩書きを持つ幼い少女が、自己紹介を終えた直後から掃除を始めるなどという光景を、2人とも受け入れられなかったのだ。しかも、イブの手捌きは超一級のプロそのもの。見る見るうちに部屋が片付いていく様子を見ていた2人には、困惑が隠せない様子だった。


 アステリアも似たような反応を見せていたが、彼女の場合はジョセフィーヌやマリアンヌとは違い、元奴隷。そのためもあってか、イブが掃除を始める様子を見て、自分だけ座っているわけにはいかないと思ったらしく、彼女は慌てて立ち上がると、イブのことを手伝おうとする。


 しかし、そんなアステリアのことを、イブは首を横に振って座らせようとした。


「手伝うのは良いかもだけど……手伝える事って何も無いかもだよ?もう終わるかもだし……」しゅばばっ


「っ?!」


 イブの口から放たれたその悪意の無い辛烈な一言と、彼女の流れるような掃除の手捌きに、アステリアは思わず言葉を失った。アステリアはこの時、察したのだ。……イブと自分は、生きている世界、見ている世界が、まるで異なっているのだ、と。


 普段どんな生活を送れば、イブのような子どもに育ってしまうのか……。アステリアや他の2人が可愛そうなものを見るかのような視線をイブへと向けていると、3人が何を考えているのか察したテレサが「やれやれ」と口にしながら、3人の疑問を晴らそうとする。


「これは誰かに強いられたわけではなく、イブ嬢の元々の気質なのじゃ。それほどまでに過酷で辛い人生を送ってきたということなのじゃ。どうか察してくれぬかの……」


 そんなテレサの発言を、イブがすかさず否定する。


「いや、別に、イブは、テレサ様が言うほど酷い人生を送ってきたつもりはないかもだし……」


 テレサはいったい何を言い出すのか……。イブが憤慨しようとした、その直前。


「「イブちゃん!」」ガタンッ


 ジョセフィーヌとマリアンヌが揃って立ち上がる。


「は、はいっ?!」びくぅ


 急に立ち上がった2人にイブが驚いていると、ジョセフィーヌが何を思ったのか、イブの事を——、


   ぎゅぅっ……


——と抱きしめた。


「えっ」


「もう良いのです。ここにはイブちゃんの事を酷く扱う人はいません。掃除は私たちが自分で行いますから、イブちゃんが掃除をする必要は無いのです」


 ジョセフィーヌの発言の後に、マリアンヌも続く。


「そうですわ?イブ様が自ら動く必要はありませんわよ?私たちに任せて下さいまし」


 そんな2人の言葉に、アステリアもコクコクと頷いた。彼女も同感だったらしい。


 一方、当のイブは、良い迷惑と言わんばかりの表情を浮かべていたようだ。彼女はテレサにジト目を向けた。


「……テレサ様。この状況、どうしてくれるかもだし」


「いやいや、実際、イブ嬢と同じくらいの年齢の子どもが、匠のような掃除スキルを持っておるとか、ありえぬからの?」


「いや、そっちじゃなくて、イブが過酷な人生を歩んできたとか、イブの気質が云々とか……」


「えっ?違うのかの?……ア嬢よ。妾、何かおかしなことでも言っただろうか?」


 テレサは自分の発言に疑問を感じなかったのか、ルシアに判断を委ねた。


 対するルシアの返答はこうだ。


「まぁ、うん……。ミッドエデンの人たちって、変わってる人が多いからね。テレサちゃんも含めて」


 否定もしなければ肯定もしないという曖昧なものだった。


 その際、ルシアが見せていた表情が、何か遠い場所を見るかのような雰囲気を放っていたためか、ジョセフィーヌたちはこう思ってしまったようだ。……ミッドエデンという国は、イブのような異常を異常とも思わないような子どもを作り出す、恐ろしい国なのではないか、と。


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