14.10-22 研究22
「ワルツ様はワルツ様であって、見た目が違ってもワルツ様なんだから!」
「……まぁ、イブが言いたいことは分かったわ?」
姿は変わっても、ワルツはワルツ。イブが言うとおり、中身まで変わったわけではなかった。
ワルツはこの時、イブの発言を聞いて、少し驚いた様子だった。彼女は気がついたのだ。……見た目を気にしていたのは他人ではなく、自分自身だということに。
ゆえにワルツは、隣で話を聞いていたルシアに向かって問いかける。
「……ねぇ、ルシア?私って、姿が変わっても、私?」
対するルシアは、コクリと頷いた。
「お姉ちゃんの姿が変わって、力も変わっちゃったとしても、お姉ちゃんはお姉ちゃんだよね?地下に工房を作ったり、自宅なのに気配を消して忍び込んだり、夜な夜な何か作ってたり……」
「あ、うん……」
見た目が云々ではなく、行動がワルツ……。妹の発言を前に、ワルツは内心頭を抱えた。主に羞恥が理由で。
ただ、その代わりと言うべきか、ワルツは内心で安堵もしていたようである。皆が、見た目の変わった自分を受け入れてくれる理由がハッキリとしたからだ。それは、誰の目から見ても明確だと言える理由だったが、見た目を気にしていたワルツ本人にとっては、その簡単なことが分からなかったようである。
「もうちょっと行動に気を遣った方が良いのかしら……」
「「えっ」」
「えっ?何?」
「いや……」
「ねぇ……」
「行動に気を遣うワルツ様とか、ワルツ様じゃないかもだし」
「お姉ちゃんがそんな風になったら……なんか、気持ち悪いかなぁ……」
「……ごめん。ちょっと意味が分からない」
気を遣う事が、なぜ気持ち悪いと言う感覚に繋がるのか……。ワルツは再び頭を抱えたようだ。とはいえ、今回ばかりは、どんなに悩んでも、答えは見つけられなかったようだが。
◇
場所は変わって、ワルツの工房から階段を上がった場所。そこには、レストフェン大公国におけるワルツの自宅が建っていた。
イブはそこに案内されて、ついでに住人についても紹介されることになった。
「この人がこの国で一番偉い人で、この人が隣の国の第一皇女で、この人がアステリア」
「ちょっ……説明がぶっきらぼう過ぎて、どんな人なのかまったく分からないかもだし。それにまた、皇女様とか、どこから誘拐してきたかもなの?」
「ほほう?さすがはイブ。私たちが誘拐してきたってよく分かったわね?」
「……適当に言ったら当たったかもだし……」
やはり、ワルツは見た目が変わってもワルツだった……。イブはガックリと肩を竦めた後で、打って変わってキリッとした表情を浮かべた。今度は(?)自分が自己紹介をする番だからだ。
「皆様、お初にお目に掛かります。イブはイブかもです。ミッドエデンでメイドをしてるかもです。以降、よろしくお願いします!」ぺこり
そんな彼女の自己紹介に、ワルツがすかさずツッコミを入れる。
「いやいや、どう考えても、貴女、メイドじゃないわよね?っていうか、この前までメイドじゃないって、自分で言ってなかったっけ?」
「…………?」
「あぁ……(もう、ダメみたいね。これは)」
いつの間にか、自分がメイドである事を受け入れている様子のイブに対し、ワルツは可愛そうなものを見るかのような視線を向けた。
そんなワルツに対し、イブが文句を言いたげな表情を見せていたので……。ワルツはイブに代わり、彼女がただのメイドではなく、何者であるかを口にした。
「彼女はミッドエデンにある王城代替施設……まぁ、国で一番大きなお城みたいなところね。そこのメイド長をしているのだけれど、肩書きはそれだけじゃなくて、料理長とドラゴンライダーと、あと——」
「ドラゴンライダーって、初めて聞いたかもなんだけど?!」
「いや、だって貴女、飛竜の背中に乗っているじゃない。彼女に慕われてもいるし……」
「それは……」
「むしろ、貴女以外に、飛竜の背中に乗って運んでもらえる人っているの?」
「…………」
イブは黙り込んだ。どうやら、飛竜カリーナの背中に乗ることが出来るのは、彼女しかいなかったらしい。親友のローズマリーも、カリーナの背中に乗せてもらえるかも知れないが、自分の羽があるので、カリーナに乗ったことは無く……。そのため、カリーナに乗ることが出来るのは、実質的にイブだけだったりする。
「って感じの立場の子なんだけど……あぁ、そうそう。もう一つ。ボレアス帝国の第一皇女って肩書きもあったわね」
「え゛っ」
「だって、ユキたちの養子でしょ?」
「それはそうかもだけど……」
「ってことは、皇帝の娘だから、第一皇女じゃない。ユキたちには今のところ、まだ子どもはいないわけだし……」
と指摘するワルツを前に、イブはしどろもどろ。ワルツの指摘を否定できなかったようだ。
それ故か、紹介を受けた側のジョセフィーヌたちは、イブを前にこう思ったようだ。……またトンデモない人物がやってきた、と。




