14.10-20 研究20
「どうして皆、私たちに、ミッドエデンを出て行った理由を聞かないのかなぁ……」
「「「それは……」」」
問いかけられたイブだけでなく、ワルツもコルテックスも、ルシアの問いかけに反応して、戸惑いの表情を見せる。ルシアの質問の答えは、敢えて聞かずとも明白だったので、3人とも、まさか質問が飛んでくるとは思わなかったのだ。
質問の答えは簡単だったが、それを理由を口にしてしまうと、気を遣う意味が無くなってしまうためか、3人ともが返答に困ってしまう。質問をした本人であるルシアも、答えを分かっていて質問したためか、イブたちが答えにくそうにしている様子を見て、首を横に振った。
「ごめん。イブちゃん。やっぱり答えなくても良い」
「ルシアちゃん……」
視線を逸らすルシアを前に、イブは何と答えて良いのか分からなかった。何事も無かったかのように振る舞えば、これまで通りに接する事ができるはず……。そこで彼女の思考は止まっていたのだ。
しかし、ルシアの考えは違ったようだ。イブを始め、皆があまりにも何も聞いてこなさ過ぎて、逆に心配になっていたのである。
ただそれは、皆が空気を読みすぎていたから、というわけでもなかったようだ。
「多分、私が一緒にいたから、皆さん、聞いてこなかったのではないでしょうか〜?」
コルテックスが近くにいたから、誰も問いかけてこなかったのではないか……。つまり、コルテックスがルシアの近くにいるのだから、彼女がルシアから詳しい事情を聞いているのではないかと皆が考え、敢えて質問してこなかったのではないか、という可能性だ。ルシアからデリケートな話を直接聞くよりも、第三者であるコルテックスからあとでゆっくりと聞いた方が、ルシアにとっても、質問者にとっても、負担は小さいと言えるのだから。
対するルシアは、再び首を横に振ってからこう言った。
「いいの、コルちゃん。気を遣わなくても。実は私、全部分かった上で、聞いてたんだ……。これは私のただの我が儘。一度逃げ出した私が、皆に嫌われてるんじゃないか、って心配になって……それを確かめたかっただけだから……」
「それは——」
考えすぎなのではないか……。コルテックスがそう口にした時の事だ。
「あー。ごめん、ルシアもコルテックスもイブも。話を切るようで申し訳ないけど、時間だわ?」
「「「えっ……時間?」」」
「エレベーターが上がってきているわ?この気配……多分、アトラスね。さっき、すれ違い様に後頭部を殴打したから、今はちょっと会いたくないのよ。ってわけで時間切れ」
「えっ……お姉ちゃん、アトラスくんと喧嘩になったの?」
「いいえ?ただ、施設への侵入に邪魔だったから、排除しただけ」
「まったく、お姉様は、乱暴ですね〜。うらやm……とても良くないことですよ〜?」
「今、貴女、別のことを言おうとしたわよね?」
「はて?何の事を仰っているのか〜……」
高速エレベータの数値がかなりの勢いで工房のある階に近付いてきている様子を見ながら、コルテックスはルシアに対して言った。
「ルシアちゃん。貴女のお家はここなのですから、気兼ねなく戻ってきて下さいね〜?皆さん、ルシアちゃんのことも、お姉様のことも、帰ってくるのを待っているのですから〜」
「……もし、帰ってくるのが遅れることになっても、嫌いにならない?」
「ありえません。ありえませんね〜。それだけは〜。もしそんな人物がいたなら、私かお姉様が、ボコボコにしてしまうと思います。こう、グーで〜」
と、コルテックスが答えてから間もなくして、工房のあった階にエレベーターが到着する。そして、チャイム音がなって、扉が開いた頃には、ワルツたちの姿は消えていたようだ。
◇
「間一髪ね」
「そう……だね」
ワルツたちは無事にレストフェン大公国の工房へと戻ってきた。転移魔法陣を使ってひとっ飛びだ。場所はエレベーターの陰のスペースなので、誰も気付かないことだろう。気付くとすれば、ワルツの工房前のスペースを掃除している者くらいだが……。その担当者が間違って転移魔法陣に乗る可能性はゼロだと言えた。そう、完全なゼロだ。
なぜなら——、
「……なんでイブも連れて来られたかもだし……」
——レストフェン大公国にある工房。そこに作られた魔法陣の上に、ワルツとルシアの他、なぜかイブの姿もあったからだ。
チーン(エレベーターの音)
弟「姉k——」
妹「とうッ!」
ドゴォォォォンッ!!




