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14.10-17 研究17

「じゃ、じゃぁ、ワルツ様がここに来る前に、片付けなきゃかもだね!」ゴシゴシ


 ルシアとコルテックスの言葉——"ワルツはここに来ていないのか"という発言を聞いたイブは、テンション高めに掃除を再開した。その手さばきは、先ほどのものと打って変わって、掃除の達人と言えるような雰囲気に満ちていて……。魔法を使っているかのように、床も壁も窓も天井も、次々に綺麗に磨いていく。


 そんな彼女の掃除風景を眺めながら、コルテックスは問いかけた。


「やる気があるというのは良いことですね〜。しかし、なぜ、イブちゃんは、そんなに頑張っているのですか〜?お姉様の部屋なんて、誰も使わないのですから、掃除などせずに放置しておけば良いではありませんか〜?」


 その元も子もない問いかけに対し、イブはフルフルと首を振る。


「ワルツ様が帰ってきたとき、お部屋の前が汚かったら申し訳ないかもだもん。だってイブはメイド長。この建物を綺麗にする責任があるかもだし!」


 イブはそう言って胸を張った。自分の仕事に誇りを持っているらしい。


 一方、階段の陰に隠れながら3人の会話を聞いていたワルツは、壁の寄りかかりながら、真っ白になっていたようである。自分はミッドエデンを放置していったい何をしているのだろうか、という罪の意識とも言えるような疑問に苛まれていたようだ。


 そんな彼女の心の言葉を代弁するように、ルシアが口を開く。


「ごめんね、イブちゃん。もうしばらくお姉ちゃんのことを借りることになると思う」


「えっ……まだ、ワルツ様、帰って来れないかもなの?」


「うん……。私の我が儘に付き合って貰っちゃっててね……」


「……そっか……」しゅん


 イブの獣耳と尻尾がシュンとする。その様子を見ていたワルツは、思わず出て行きそうになるが、彼女の精神の残りHP(?)は0。豆腐メンタルのワルツには、足を踏み出すことが出来ない。


 その間も、イブの幼気で健気で純粋な発言が、ワルツの心を蹂躙する。


「……分かったかもだし。じゃぁ、イブ、ワルツ様が帰ってくるまで、毎日、お部屋の前を綺麗にしておくかもだし!いつ帰ってきても、気持ちよくお仕事が出来るように!」ごしごし


「あまり根を詰めすぎないように注意して下さいね〜?」


「このくらい大丈夫かもだもん!だって、ワルツ様は、イブなんかよりも頑張ってるかもだもん!」


   ガタッ……


「「ん?」」


「じゃぁ、イブ、バケツの水を交換してくるかも!」


 イブはそう口にすると、バケツを持って階段へと向かった。エレベーターは使わない。水道のある一つ下の階まで歩いて行くつもりらしい。


 結果——、


「……ええっ?!」


——イブは階段にいた人物を見つけてしまう。


「だ、だ、だ……誰か倒れてるかもだし?!」


「「……誰か?」」


「誰か分からない子がいるかも!なんでこんなところに……」


「「……あー」」


 イブが見つけたのは、自分と同じくらいの年齢の少女だった。ようするにワルツだ。イブは小さなワルツを見たいことが無かったので、それが誰なのか分からなかったようである。


 ちなみに、この時、ワルツは、ぐったりと力なく崩れ落ちていて、イブが声を掛けても反応を見せなかったようだ。そんな彼女はこの時、何やらブツブツと呟いていた。


「も、もう……ダメかも知れないわ、ね……」


 尤も、その呟きは、イブには届かなかったようだが。


 こうしてワルツは、心に再起不能(?)なほど大きな傷を負いながらも、どうにか工房への帰還を果たしたのである。この時、ルシアは思ったようだ。……真っ正面から帰っていたなら、こんな悲惨な事にはならなかったのではないか、と。


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