6前前-04 出発前編4
微修正(?)
狩人がどうしてワルツと一緒にボレアスへ行けないのかを追記
ストレラと別れた後、ワルツは王城へと戻ってきた。
そもそもワルツは、別に理由があって議長室へと顔を出したのだが、カノープスやユキ、それにドラゴンやケルベロス達に妨害されて、本題を切り出す機会を失っていたのである。
だが、またしても、ワルツは本題を切り出せそうになかった・・・。
「お姉ちゃーん!」
ポフッ・・・
・・・議長室へとやってきたワルツにルシアが抱きついてきたのである。
「あのー、ルシア?もう少し離れてくれると助かるんだけど・・・?」
「ううん。私、お姉ちゃんの勇者になるって決めたんだもん!」
「そ、そう・・・」
ボレアスへの使者の派遣が2日遅延することになった・・・その大きな原因がこれである。
そう、ルシアがワルツにベッタリとくっついて、離れなくなってしまっていのだ。
「うん!もう離さないんだから!」
「んー・・・でも離してほしいかなー・・・」
しかし、
「んーー!!」
ワルツの腕に顔を埋めたままルシアは返事をしなかった。
どうやら彼女に離れる気は無いらしい。
ワルツがルシアに、どう対応していいものか悩んでいると、
「お姉さま〜?何か他に、ご用件がありましたでしょうか〜?」
議長室の主が問いかけてきた。
部屋の中には既にカノープスたちの姿がいないところを見ると、どうやら必要な話は終えたようである。
「あるんだけど・・・ルシアが離れてくれないから、このままで話すわね?」
「はい。構いませんよ〜?」
するとワルツは、自身に抱きついて嬉しそうに尻尾を振っているルシアの頭に手を置くと、本題を話し始めた。
「・・・ボレアスへの使者なんだけど・・・やっぱ、私も行こうと思うのよ」
『え?』
「何?行っちゃいけない理由とかあった?」
自分の言葉に驚いている2人に問いかけるワルツ。
すると、
「えっと、カタリナお姉ちゃんやリアお姉ちゃんのことはいいの?」
コルテックスよりも先に、ルシアが口を開いた。
「んー・・・今、カタリナにやってもらってる仕事って、そう簡単に終わるものじゃないのよ。それが終わるまで、私には宿題の用意とチェックくらいしか出来ないし・・・。それにリアだって、すぐに酷いことになるってわけじゃないしね。まぁ、最悪、何かあったら、飛んで返ってくればいいだけのことだから」
「連絡が取れれば、ですよね〜?」
「・・・なんか、手厳しいわね。コルテックス?」
「前例がありますからね〜」
そう言って、コルテックスは笑みを浮かべる。
・・・但し、暗黒微笑だが。
「うっ・・・いや、今度は大丈夫よ。ルシアだって、ユリア達だっているんだし・・・」
「・・・んー・・・まぁ、それなら良いでしょう」
余程、ワルツに対する信頼がないのか、コルテックスはルシアやユリアの名前を聞いて考えこんだ後に、ようやく許可を出した。
「ところで、コルちゃん?どうして私を呼んだの?」
と、首を傾げながらルシアがそんな疑問を口にする。
ワルツが来る前から議長室にいたルシアだったが、どうやらコルテックスの所へは、遊びに来たわけではないらしい。
「それはですね〜・・・、実はルシアちゃんを今回の使節から外そうと考えていたのですよ〜」
『えっ?!』
「もう済んだことなのですが〜・・・お姉さまが戻ってきて、すぐに引き離すというのは、少し酷い仕打ちかと思いまして〜・・・」
どうやら、ワルツが使節に同行するという話をしなかった場合、コルテックスはルシアを使節から外そうと考えていたらしい。
「・・・ごめんね、コルちゃん。心配かけちゃって・・・」
「いいえ、そんなことはありませんよ〜?むしろ、この場合、お姉さまの方が謝るべきですね〜」
「いや、本当に申し訳ないと思っているわよ?」
「本当ですか〜?まぁ、いいんですけどね〜。・・・話を戻しますけど、お姉さまがルシアちゃんと一緒に使節としてボレアスへと向かうのでしたら、私からは特に何も言うことはありませんよ〜」
「ありがとう、コルちゃん!」
そう言ってコルテックスの手を取りながら、満面の笑みを浮かべるルシア。
余程、ボレアス行きを楽しみにしていたらしい。
「・・・がんばってくださいね〜」
そんな喜ぶルシアの様子を見て、使節のメンバー交代をしなくて良かった、と思うコルテックスであった。
「さてと、どうやって行こうかしらね?」
廊下に出た後、メイド姿のワルツが、ふと呟く。
すると、同じくメイド服に身を包んでいたルシアも口を開いた。
「エネルギアく・・・ちゃんには乗って行かないの?」
「えぇ。今、不必要にエネルギアを動かして、リアに何かあっても困るしね。暫くはエネルギアはお留守番ってことになるかしら」
「そっか〜・・・」
ワルツの言葉に、残念そうに俯くルシア。
もしかすると、自由に会話ができるようになったエネルギアと共に旅が出来ると思っていたのかもしれない。
ともあれ。
「じゃぁ、歩いて行くの?」
「歩いて行くっていうのも嫌いじゃないけど、時間がかかるわよね・・・。ルシアならどうやって行く?」
そんなワルツの問に対して、ルシアは顎に手を当てて考えこんだ後、明るい表情を見せて言った。
「飛んでく!」
「だよね〜」
恐らく、ユリアやユキ達を重力制御魔法で軽くした後、風魔法か何かで吹き飛んでいくのだろう。
「今回も、それでいいと思うんだけど、何か芸が無いっていうか・・・旅って感じがしないのよね・・・」
「そう?んー、じゃぁ、馬車?」
「馬車ねぇ・・・。あれ、ガタガタ揺れて、お尻が痛くなるだけじゃない?確かに、歩くよりは楽かもしれないけど・・・」
「んー・・・」
アレもダメ、コレもダメと、中々首を縦に振らないワルツに付き合って、必死に移動方法を考えるルシア。
・・・そして彼女の口から出てきた、次なる移動手段は・・・
「じゃぁ、魔物の背中に乗って行くっていうのは?」
所謂テイムである。
一応、この世界でも、テイマーは少ないとはいえ、全くゼロというわけではなかった。
「・・・種類によっては斬新かもね」
「なら、水竜お姉ちゃんとか?」
「いや〜、それやったら多分彼女、旅の途中で干上がったミミズみたいになると思うわ」
「そうだよね・・・」
ルシアはそう言いながら、苦々しい表情を浮かべた。
恐らく、路上で干からびる全長50mのミミズの姿でも想像しているのだろう。
「もしも魔物をテイムして移動手段にするなら・・・やっぱり、普通じゃないあり得ないやつがいいと思うのよ?」
「あり得ないやつ?例えば?」
「そうね・・・幻獣とかはありきたりだし、ケルベロスとかはストレラがもうやってるから面白くないし・・・」
なお、幻獣に乗るにしても、ケルベロスに乗るにしても、普通ではあり得ない移動手段である。
ワルツはそれから暫く考えるも、
「・・・うん、思いつかない」
早々に白旗を上げるのであった。
「・・・困ったね」
「困ったわ・・・」
そんな呟きを口にしながら、2人で頭を抱える魔神メイドと勇者メイド。
2人が揃って創りだす異様な光景に、王城内の人々は奇異の視線を向けつつ・・・だが、できるだけ気にしていない様子を見せながら素通りていく。
そんな中、周りの様子を気にすること無く、2人の近寄ってくる影があった。
「ん?2人とも、こんな所で何してるんだ?」
狩人である。
すると、彼女に気付いたルシアが口を開いた。
「あ、狩人さん。えっと、今度、魔王の治める国に行くことになったんですけど、どうやって行けばいいかなーってお姉ちゃんと一緒に悩んでたんです」
「ん?2人で行くのか?」
そんな彼女の疑問に、今度はワルツが答える。
「えぇ。ちょっと、魔王シリウスってやつの顔を拝んでこようかと思いまして」
「・・・そうか」
ワルツの言葉に、深い溜息を吐く狩人。
ワルツがまたいなくなることに、悲しみを覚えているらしい。
「やっぱり、相当忙しいんですか?」
もしも狩人の時間に余裕があるなら、彼女にも一緒にどうかと声を掛けてみようと思ったワルツだったが・・・どうやら、そういうわけにもいかないようである。
「あぁ・・・。ありがたいことに資金には困ってないんだが、サウスフォートレスの中だけじゃ職人が賄えなくてな。辺りの街にも求人や連絡を入れているんだが・・・」
「どうにもならないと?」
「あぁ。冬なら、いくらでも人手は余っているらしいんだが、これから冬にかけての季節は特に忙しいらしくてな」
「そういうことですか・・・」
「そういうことだ。だから、人集めをしなきゃならないから、今のタイミングで一緒にいくというのは難しいんだよ・・・」
そう言うと狩人は再び深いため息を吐いた。
そんな狩人に、サウスフォートレスを崩壊させた原因であるワルツは、内心で申し訳無さを感じながら口を開く。
「・・・分かりました。では、アトラスと暇なはずの勇者達をサウスフォートレスに派遣しましょう」
すると狩人は、難しそうな表情を浮かべてから、疑問を口にした。
「・・・いや、色々できるアトラスが来てくれるのは大いに助かるが・・・勇者たちはどうなんだ?素人ではないのか?」
「この際、素人でも玄人でもどちらでも良いのではないでしょうか。恐らく彼らなら、並の男性よりも、大いに働いてくれるはずですよ?」
「・・・確かにそうかもしれないが・・・」
「彼らに手伝いをさせる口実ですか?大丈夫です。それならちゃんとあります」
・・・その頃、王城内の来賓室では・・・
「んあー、暇だ!暇だ暇だ暇だ・・・(略)・・・暇だ!!」
床に膝を付き、頭を掻きむしりながら、剣士が喚いていた。
最近、狩猟仲間(?)の狩人が忙しいこともあって、王城から出る機会がないために、ストレスが溜まっているらしい。
『ん?どうしたのビクトールさん?』
「最近、身体が鈍ってしまって、どうにもこうにも・・・って、うおっ?!エネルギア?!」
剣士が気づくと、いつのまにか彼の真横に真っ黒な姿のエネルギア(ミリマシン集合体)が立っていた。
『うん!僕も暇だったから遊びに来ちゃった』
「おまっ・・・遊びに来たって、王城内を歩いてきたのか?!」
『えっとねぇ・・・』
エネルギアがそう言うと、ミリマシンの集合が解け、スライムのような液状になる。
『隙間を通ってきたの』
そういいながら、部屋の中を縦横無尽に動き回るエネルギア。
もしもエネルギアが魔物だとするなら、スライムと違って核のない彼女(?)を物理的に倒すのは極めて困難なことだろう。
「・・・はぁ。そうか。でも、あまり驚かせないでくれよ?っていうか、ワルツにバレたら拙いんじゃないか?」
『んー、分かんない!』
「・・・んー、まぁ、バレなきゃ良いのか・・・?」
剣士とエネルギアがそんな会話をしていると、
「・・・なぁ、ビクトールとエネルギアちゃん。早速バレたみたいだぞ?」
一人、静かに本を読んでいた賢者が、本から視線を動かさずに口を開いた。
『えっ・・・』
元の姿に戻ったエネルギアと剣士が入口の方を振り向くと、
「あ、エネルギアく・・・ちゃん」
「もうエネルギアったら・・・ミリマシンを使って変身したらダメって言ったのに・・・」
「なんか、すごい光景だったな・・・」
ワルツとルシア、そして狩人が立っていた。
どうやら、一部始終を目撃していたらしい。
『えっと・・・うん・・・ごめんなさい・・・』
尻すぼみで、声が小さくなっていくエネルギア。
すると剣士は、ワルツからエネルギアを庇うようにして言った。
「まぁ、誰も困ってないんだし、良いじゃないか・・・っていうか、ノックしてから入ってこいよ?」
「ん?ノックならしたわよ?マイクロノックだけど」
「なんだそれ・・・よく分からん・・・。ま、それはそうと、久しぶりだな。何かあったのか?」
「それは、私があまり顔を出してなかった理由を聞いているのかしら?それとも、何しに来たのかを聞いてるのかしら?」
「・・・話が長くなりそうだから、後者のほうで」
「・・・そう。手間が省けて助かるわ」
とはいえ、少し残念そうな表情を浮かべるワルツ。
「で、要件なんだけど・・・」
そして彼女は突拍子もない事を口にした。
「エネルギア欲しい?」
『・・・え?』
そんなワルツの言葉に、その場にいた全員が固まるのであった・・・。
今日は紅葉を見に行ってきたのじゃ。
残念じゃが、まだ緑々(?)しておって、あまりキレイではなかったのじゃ・・・。
空気は美味であったがのう。
・・・早く、物語の方の季節も進めたいのじゃ・・・。
でも、暫くは無理じゃろうなー・・・。




