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14.10-13 研究13

 王都を歩いている間、ワルツの正体が町の人々にバレる事はなかった。本人の意図に反して、彼女はそれなりに顔が売れていたので、元の姿であれば、すぐに正体がバレてしまうはず……。しかし、今の彼女は見た目が幼女。普段とは姿がまったく異なっていたこともあり、彼女がワルツだとバレる事は無さそうだった。


 ちなみに、そんな彼女が町の人々から何と呼ばれていたのかというと、単一の呼び名ではなく、複数の呼び名で呼ばれていたようだ。例えば、【正体不明の少女】だったり、【魔神様】だったり、【黒幕様】だったり……。大体、ネガティブな名前で呼ばれていたようである。


 とはいえ、嫌われているのかというと、そういうわけではなく、国を良い方向に変えた裏方的な人物として捉えられていたようである。適切な呼び名が見つからなかったこと、あるいは【天使】や【勇者】、【救世主】などと言った名前が別の人物の呼び名として定着していたことなど、複数の理由があって、ポジティブな名前を付けられなかったのである。


 なお、本人が望んだような【ただの町娘】と呼ぶ者は、誰一人としていない。


「(誰も見向きもしないわ……。これはこれでなんていうか……いえ、これがただの町娘なのね!)」


 と、ワルツがテンション高めに、町の中を歩いていると——、


   ドゴォォォォ……


——という轟音を上げながら、町の空を何かが通過していく。


 突然の出来事だったので、一瞬驚くワルツだったものの、飛んでいった物体が何であるのか気付いた瞬間、彼女はすぐに緊張を解いた。空を飛んでいたのは知人だったのだ。


「なんだ、シルビアか……」


 空を飛ぶことしか能の無い(?)翼人である彼女は、飛ぶ速度がミッドエデンの中でも随一。以前のエアレースでは、ルシアよりも速く飛んでおり、その際の最高速度は、マッハ4以上。轟音を上げて跳ぶというのも頷けるような速さだった。


「(あんなに急いでどこに行くのかしら……って、ルシアの所か。町のすぐ近くまでは、魔法で飛んでたんだから検知されたのね。で、今のがスクランブル発進、と)」


 スクランブル発進をするには、ちょっと遅いのではないか……。と思うワルツだったものの、彼女は町の人々の感想を聞いて、考えを改めることになる。


「おっ?シルビア様か!」

「今日もおつとめご苦労様です!」

「シルビア様たちがいれば、王都も安泰じゃな」

「大きくなったら、私もあんな風になりたい!」

「あらあら、この子ったら」


「(ふーん。シルビアったら、認められているのね)」


 自分の事ではなく、仲間に向けられた言葉ではあったものの、ワルツは町の人々の言葉に、少しだけ頬を緩ませた。


 と、そんな時のこと。彼女の耳に、別の住民たちの声が入ってくる。


「それにしても、魔神様はどこに行っちまったんだ?」

「国に愛想尽かして、出て行っちゃったって話だね?」

「皆、魔神様の事を大事にしなかったからな……」

「偉い方だっていうのに、皆、どこにでもいるような町娘のような扱いをしてたって話だったか?」

「人ごとみたいに言ってるけど、あんたも同じだよ?この前、目の前を通りがかったのに、挨拶の一つもしなかったじゃないかい!」

「そ、それを言うなら、お前も同じだろう?!急に現れたんだから、どんな反応をすれば良いのか、分からなくなっちまったんだ!」

「私たちが悪いのかねぇ……」

「わかんねぇ……。戻って来ねえかなぁ……魔神様……」


「(……魔神?誰のことを言っているのかしら?」


 自分の事を言われていると知ってか、知らずか…・…。ワルツは首を傾げながら町の中を進んでいく。その際、何名の住民たちが今のワルツの姿を見て、ハッとしたような表情を浮かべるが、彼らの中にある【魔神様】と比べてるとかなり幼く見えたせいか、彼らがワルツをワルツだと認識することは出来なかったようだ。


 結局、ワルツは、誰に話しかけられることも無く、無事に(?)王城代替施設の入り口に辿り着く。問題はここからだ。ワルツが町の中を進む限り、彼女は誰にも呼び止められなかったが、この先は別。王城代替施設の敷地に掛かる橋には、検問があり、何の目的で施設に来たのかを問い質されるのは明白なのだから。


「(どこまで顔パスが成功するのか、試してみたくはあるけれど……今日はどこまでこっそり侵入できるか、試してみましょ!うん!)」


 ワルツは、自分ルールに則って白線の上だけを通って帰宅する子どものように、誰にも見つかることなく自分の工房へと辿り着くというミッションを開始した。

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