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14.10-12 研究12

 ミッドエデン共和国の王都は、国がまだ王国だった頃の町をそのまま残してあったので、古い町並みと、新しい町並みとが、混ざり合うような見た目をしていた。国を管理するコルテックスたちに、文化を大きく変えるつもりは無く、古き良き姿を残そうとして辿り着いた姿が、今の王都の町並みである。


 ゆえに、一ヶ月近く国を開けていたワルツたちが久しぶりに王都に帰ってきても、町並み自体は変わっていなかった。そう町並み自体は。


「何これ……」

「えっと……お堀?」


 空から見た王都は、アメーバが足を伸ばすように四方八方へと発展していたのだが、その周囲を囲むかのような深く巨大な堀が作られていたのである。


 いったい何のための堀なのか……。ワルツにもルシアにも分からなかった。レストフェンの自宅にチラホラと顔を見せるコルテックスは、王都について何も語っておらず、ワルツたちにとっては寝耳に水な光景だった。


 とはいえ、堀が作られていたこと以外に、町に変化は無い(?)ようだったので、ワルツとルシアは、町の改造について、できるだけ考えないようにしながら、ミッションを遂行することにしたようである。


「まぁ、良いわ。まずはお寿司を買いに行きましょう?」


「えっ?良いの?」


「だって、工房に転移魔法陣を設置したら、あとはそれを使って跳んで帰るだけだし」


「……皆に顔は見せていかないんだ?」


「何だかんだ言って、コルテックスたちには会っているし……それに、私の今のこの姿って、あんまり皆に見られたくないのよ……。正直言うと」


「お姉ちゃんがそう言うのなら……」


 ルシアはそこで言葉を止めた。その先の言葉を、彼女は口に出来なかったらしい。すなわち——誰にも会わずに帰る、というその一言を。


 そんな彼女には、会いたい人物がいたようである。ミッドエデンには、友人、あるいは家族と言えるような者たちを残していたので、彼ら彼女らが今、何をしているのか、気になっていたのだ。


 対するワルツは、皆が安泰に暮らしていることを疑わなかったのか、転移魔法陣を工房に設置し終えたらすぐに帰るつもりでいたようである。ミッドエデンを離れ、レストフェン大公国へと移り住んだことについて、ワルツは、ルシアのため、と考えていたのだが、実際は妹のためなどではなく、所謂"ちんちくりん"になってしまった自分の姿を見られたくないがための逃避行だった、と言えるのかも知れない。


 それゆえか、ワルツはルシアが誰かに会いたそうにしているなど気付くことなく、話を進める。


「このまま王都に近付けば、魔力で察知される可能性が高いわ?どうする?」


「魔力を抑えるのは、短時間ならどうにかなるけど、そうなると魔法が使えなくなって、着陸できなくなっちゃうかなぁ……」


「じゃぁ、私の力で減速するから、ルシアは今から町を出るまで、魔力の解放は我慢して」


 ワルツがそう口にすると、超音速で跳んでいた彼女たちの速度が急激に落ちていく。ワルツが重力制御システムを使い、ブレーキを掛け始めたのだ。


 王都に入るためには、本来であれば、門番のところに出向いて手続きをしなければならないのだが、彼女たちは特別に、空からの直接の侵入を許されていた。それは今も同じのはずなので、ワルツは着陸地点を王都の端の方——より具体的に言えば、着陸する際に人目に付かなそうな場所を狙って軌道修正を行った。


   シュタッ!


 2人は無事に地面に降り立つ。その際、何名かの町の人々に見られて、酷く驚いたような表情を向けられるが、誰も話しかけてこないようなので、ワルツたちは気にはしない。


「さぁ、ルシア。タイムアタックよ!ここからお寿司を買って、そして工房まで走るの!」


「お姉ちゃん……行動が繊細なようで、かなり大胆だよね……」ぼそっ


「うん?何か言った?」


「えっと……多分、お寿司を買うと、注文してから30分くらいは準備に時間が掛かると思うよ?」


「あの店主を急かす……のは物理的に無理ね。仕方ない。じゃぁ、工房には私だけで行ってくるから、塔(王城代替施設)の天辺で待ち合わせってことで良い?」


「うん。……ねぇ、お姉ちゃん」


「ん?」


「私の事をおいて帰ったり……しない?」


「ないない。絶対に無い。むしろ、私の事を置いて行かないで欲しいくらいよ?本気で隠れて行くから」


「ハハ……。じゃぁ、塔の天辺で待ち合わせね?」


 ルシアはそう言うと、大通りの方へと歩いて行った。その先にある彼女の行き付けの稲荷寿司屋に行くために。


 そんな妹の背中をしばらく見つめて、姿が見えなくなったところで——、


「さて……私も仕事をしなきゃね」


——ワルツはその場から移動を始めた。行き先は、王都の一番奥。世界樹の苗木が青々と茂る場所の近くにある、高さ300mの高層建築物——通称王城代替施設の最上階。そこにある自身の工房だ。



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