14.10-10 研究10
そして作戦は、次の段階へとシフトする。そう、ワルツたちの目的は、転移魔法陣を作る事ではないからだ。
「……さて。あとは、やるだけね……」
ワルツは2つ作成したアーティファクトを手に取りながら、意気込みを口にする。
対するポテンティアは、ワルツの言葉の裏側を察していたようだ。
『では僕が送りましょうか?』
対するワルツは、少しだけ固まってから口を開く。その際、彼女は、ルシアに対し、努めて視線を合わせないようにしているようだった。
「……頼むわ」
一体、ワルツはどこに行こうというのか……。言わずもがな、ミッドエデンの王都。その最も高い建物の、最も高い階層にある、彼女の工房である。そこに転移魔法陣を配置し、レストフェン大公国にある工房と直結させて、自由に行き来できるようにすること。それがワルツの次の目的である。
ワルツとポテンティアは、どこに何をしに行くのか具体的には語らずに、これからの行動だけを口にしていたわけだが、それには理由があった。2人とも、ルシアはミッドエデンに帰りたくないと思っている、と考えていたので、直接の言及を避けていたのだ。
効率だけを考えるのなら、ワルツはポテンティアに移動を頼まずに、ルシアに転移魔法で送って貰うよう頼めば、一瞬でミッドエデンの王都に帰れるはずだった。それをしないのはルシアのことを気にしてのこと。それゆえに彼女は、ルシアに対し、できるだけ視線を合わせようとしなかったのである。
しかし、彼女の行動はあまりに不自然だったためか、あるいは、ルシア自身も計画の全貌を知っていたためか……。ルシアは苦笑しながら、姉たちに対し、こう言った。
「ポテちゃんが送らなくても、私が送るよ?」
その瞬間、ワルツの方がビクッと揺れる。今、最も、ルシアの口から聞きたくなかった言葉が飛んできた——そんな様子だ。
結果、ワルツは、ギギギギギ、という音が聞こえそうな動きで、ルシアの方を振り向き、そして問いかけた。
「い、良いのよ?無理にミッドエデンに送らなくても」
対するルシアは、肩を竦めて首を横に振った。
「お姉ちゃんが心配していることは分かってるけど、もう大丈夫だから心配しないで?」
「ほ、ほ、本当……?」
「本当」
本当に大丈夫なのだろうか……。ワルツは心配を拭えなかったようだが、ルシアが大丈夫というので、彼女のことを信じることにしたようだ。
「じゃ、じゃぁ、ミッドエデンに——」
転移魔法で送ってもらえると助かる……。そう口にしたかったワルツだったが、ルシアから飛んできた言葉に彼女は耳を疑うことになる。
「うん、いいよ?じゃぁ、行こっか?」
「え゛」
「うん?行くんだよね?ミッドエデン」
「え、えっと……転移魔法で送ってくれれば良いだけなんだけど……」
「ううん。私も行くよ?」
「え゛っ」
「だって、お寿司が切れそうなんだもん。テレサちゃんの作るお寿司の量じゃ、全然足りないし……」
「ああ……うん……そう……」
ワルツは納得した。ルシアがミッドエデンに戻りたいと想うようになった理由。それが食欲にあることを……。
こうしてワルツとルシアは、ミッドエデンの王都にある工房に転移魔法陣を設置し、稲荷寿司を大量に買い込むために、一旦、ミッドエデンの自宅に帰宅することにしたのである。




