14.10-09 研究9
それからしばらくした頃。
「……出来たわね」
「……出来たね。何か納得できないけど……」
『後で天井を修復しないと、崩落してきそうですね……』
ワルツたちは、一仕事を終えたような表情を浮かべながら、地面に書かれていた転移魔法陣を眺めていた。ようやく、転移物を天井にぶつけないよう転移させることに成功したのだ。もちろん、正常な転移に成功した、と言う意味で。
この間、ワルツたちは、数十回に渡り、天井に向かって石を打ち上げており、その度に轟音と振動を上げていた。そのためか、彼女たちの近くには誰もおらず……。皆、遠いところに避難していたようである。
「これ、マスドライバー代わりになりそうよね」
『ますどらいばー?』
「あー、前に聞いた事があるような、ないような……」
「大質量のものを空に打ち上げるときに使うやつよ?例えばポテンティアの巨体とか」
『それって……つまり、僕のことを壊すって、言ってます?というか、僕のことを打ち上げることに使うよりも、兵器としては使った方が効果的だと思うのですが?』
「確かに武器としても使えるかも知れないけど、それだけに使うのなんて勿体ないじゃない。攻撃だけを考えるなら、もっと色々な方法はあるんだしさ?」
と、言いながら、ワルツは手にした石ころを転移魔法陣へと放り込んだ。すると石ころは、地面に書かれた転移魔法陣の上に落ちる前にブゥンと消え去り、別の場所に書かれた転移魔法陣の上へと一瞬で現れる。
ちなみに、転移魔法陣は、ルシアからの魔力供給を受けていない。完全なスタンドアローン状態の動作だ。
というのも、ルシアが魔力供給を行うと、転移魔法陣が暴走して転移させたものを射出してしまうので、結局、彼女が魔法陣に魔力を供給すること自体を断念することにしたのである。彼女が魔力を注入した場合、打ち出される物体の速さは、まさかの第三宇宙速度を超えるほどに速く……。彼女がどんなに魔力を絞っても、状況はあまり進展しなかったのだ。
ゆえに、ワルツたちは考えた。ルシアが魔力を供給せずとも、動くような転移魔法陣を作れないか、と。
そこで考えられたのが、エクレリアの者たちもやっていたような、魔石を使った方法である。魔石は魔物の体内で作られる石ころ状のもので、魔力が結晶化したものだと考えられている代物。魔法陣用のインクを使って魔法陣と接続しておけば、そこから魔力を供給できるはずだったのだ。現代世界のもので例えるなら、電池のような働きをすると言えるだろう。
魔石を使えばルシアが魔力を直接供給しなくても済むので、魔法陣は上手く動くはず……。と、不満げなルシアを除いて、ワルツとポテンティアは考えたものの、話はそう簡単ではなかった。端的に言うと、彼女たちの手元に魔石が無かったのだ。世間一般的には、それなりの量が流通しているのだが、ワルツたちにとっては科学技術がある以上、無用の長物。電池があるのに、電池代わりのものを使用するなど、これまで考えてこないことで、転移魔法陣を動かせるほどの魔石は手元になかったのだ。
ゆえに、彼女たちは魔石以外のもので魔法陣を動かすことを決めたのだ。まさか、実験のために、罪もない魔物を狩るわけにもいかないのだから(?)。
結果、考えついたのが、まさかのアーティファクトを使う、というものだった。見た目はただの蒼い宝石のような見た目をしているのだが、物理的な力を加えて割ると、周囲のものを過去に転移させてしまうという危険極まりない代物である。
アーティファクトは、ルシアが超エンチャントを駆使して作成した魔力の結晶であり、原理的には魔石と同じもののはずだった。実際、転移魔法陣に接続すると、少しずつ魔力を供給することができ、前述の通り、無事に転移魔法陣を動かすことが出来た、と言うわけだ。
しかも、アーティファクトを使う事により、魔石を使う場合と比較してとてつもなく大きなメリットが生じた。繰り返しになるが、アーティファクトとは、ルシアが莫大な魔力をつぎ込んで作成する魔力の結晶のようなもの。一般的に"魔石"と言われている代物とは比べものにならないほどの高密度な魔力の結晶体と言えたのである。
それを転移魔法陣に使うとどうなるのか。
「まぁ、いずれにしても、これで転移魔法陣が使い放題ね!」ブゥン、ブゥン、ブゥン
何十回、何百回、何千回と使っても、ほぼ無尽蔵と言える魔力がアーティファクトから供給されるので、半永久的に使える転移魔法陣が完成してしまったのだ。この瞬間、世界は大きな変曲点を迎えた、と言えるかも知れない。まぁ、使うのも作れるのもワルツたちだけなので、あまり大きな変化は無いかも知れないが……。




