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14.10-06 研究6

「魔法陣の形状については、私が記憶しているわ?細部まで全部ね?」


「じゃぁ、魔法陣を試せるんだね?」

『本来は乗り物である僕が転移魔法陣のテストをすることになるとは……。世も末ですね』


「いやいや、貴方、元は乗り物じゃないでしょ」


 というやり取りを交わしながら、3人は転移魔法陣を試すための準備を始める。


 魔法陣に使われていた銀色の塗料は、オリハルコンを粉末にしたものをマナで溶いたものなので、ルシアがその辺の地面を削り、重力制御魔法で精錬して、オリハルコンだけを抽出する。その際、莫大な魔力が吹き荒れたために、地下空間にいた者たちは、皆、大騒ぎになったようだが、ルシアが魔法を使ったのだと理解すると、半分ほどの者たちはすぐに落ち着きを取り戻したようである。


 具体的には、ワルツたちと一緒に地下空間で生活を共にしていた者たちだ。彼らは、ルシアの魔法の強大さが分かっていたので、それほど大きくは驚かなかったのだ。


 だが、彼らとは対照的に、すぐには驚きが治まらない者たちもいたようである。その代表例が、ジョセフィーヌと共に行動を共にしてきた近衛騎士たちである。彼らはルシアがどんな魔法を使うのか、よく知らなかったのだ。


「な、何だありゃぁ……」


 近衛騎士団長のバレストルは、ワルツやルシアたちが自宅の外で何やら実験を始めた様子を見て、腰を抜かしていた。まるで爆発でも生じたかのように、激しい魔力の濁流と熱波が襲ってきたのだから、詳しくを知らない彼にとっては、大事件でも起こったかのように思えていたに違いない。


 バレストルの他にも、彼と同じような反応を見せる者たちが、かなりいたようである。何が起こったのかと、ジョセフィーヌやマリアンヌも、家の外へと飛び出てきて、ルシアの魔法に目を丸くしていたようだ。まぁ、食事を作っているテレサやアステリアは、慣れていたこともあり、わざわざ家の外に出てくるようなことはなかったようだが。


 そんな人々の視線に気付いていないのか、それとも敢えて無視をしているのか……。ワルツはそのまま作業を進めていく。


「それじゃぁ、ポテンティア?オリハルコンを砕いてもらえるかしら?」


『承知いたしました!』ゴリゴリ


「ルシアはマナの作成をお願いね?」


「うん、そう言われると思って、材料の水を用意しておいたから、ちょっと待ってね……」ドゴーッ


 2人が手を動かすと、見る見るうちに魔法陣を書くための材料が出来上がっていく。その様子を眺めていたワルツは、内心、頭を抱えていた。


「(私……何もしてない……)」


 ルシアとポテンティアばかりが手を動かしていて、自分は指示を出すだけ……。ワルツは手持ち無沙汰に襲われていたのだ。


 だが、それも、間もなく終わりを迎えることになる。


「マナ、できたよ?」

『オリハルコンの粉末も出来上がりました』


「これでようやく、肩身の狭さともお別れ——」


「うん?」

『はい?』


「ううん。なんでもないわ?次は私の出番ね!」


 ワルツはルシアとポテンティアから受け取った材料を同じ容器の中に入れて混ぜ合わせ始めた。何と言うことはない、ただの攪拌である。


 ちなみに、材料を混ぜる際、ワルツは道具を使っていなかった。重力制御システムを使って、グルグルと渦巻く力場を容器内に発生させて、ミキサーのようにかき混ぜたのである。機動装甲がなくとも、この程度の重力制御なら、容易に操作できるらしい。


 そして——、


「完成ー!」

「『おー!』」


——魔法陣を書くためのインクが完成した。


 そんなタイミングで、ジョセフィーヌとマリアンヌ、あるいはバレストルたちは、何をしているのかワルツたちに話しかけようとしていたようである。彼らから見る限り、3人が何をしているのか、サッパリ分からなかったからだ。


 しかし、彼らは結局、ワルツたちに話しかけることが出来なかった。というのも——、


「お姉ちゃん、筆は?」


「筆?いらないわよ?こうするから」


   バシャッ!!


——ワルツが突然、手にした容器の中身を、ダイナミックに周囲にまき散らし始めたからだ。


 ワルツはいったい、何をしようというのか……。ルシアとポテンティアを含めた全員が、訝しげに眉を顰めていると、不可解と言えるような出来事が生じる。ワルツがまき散らしたインクが、地面に落ちることなく、フワリと宙に浮いて……。そして、ワルツを中心にして、グルグルと渦巻き始めたのだ。

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