14.9-50 遭遇50
マリアンヌは知った。ワルツたちがジョセフィーヌのことを誘拐していたことを。
そして彼女はもう一つ知ることになる。……なぜワルツたちが、レストフェン大公国に対して自分のしてきたことを追求しなかったのかを。
「……合点が行きましたわ」
マリアンヌは思わずつぶやいた。それはそうだ。自分と同じくらい大きな犯罪行為といえる行動をワルツたちがしているのだから、話せるわけがない……。マリアンヌの胸の中では、今まで引っかかっていた疑問がストンと腑に落ちたようである。
ただ――、
「「「『えっ?』」」」
「い、いえ、なんでもありませんわ……」
――いっせいに皆の視線が集まったせいか、マリアンヌは思わず閉口してしまったようだ。
そんな彼女は閉口しつつ、頭の中でこんなことを考える。
「(もしかして、ほかにも隠されていることがあるの?)」
もしかすると、話はそう単純ではなく、もっと複雑で、何かほかにも内緒の話があり、複雑に絡みついているのではないか……。ワルツに誘拐されたことについて、ジョセフィーヌがなんとも思っていなさそうだったこともあり、マリアンヌは深読みしたのだ。
なお、実際のところは、そんな深読みが必要な事態にはなっていない。ワルツたちが、そんな複雑なことを考えるわけがないからだ。ワルツたちがジョセフィーヌのこれまでの行動を詳しく聞かなかった理由は、これまで自分たちがレストフェン大公国で何をしてきたのかについて、マリアンヌあるいはジョセフィーヌから根掘り葉掘り聞かれることを避けてのことだったのだ。つまり、ワルツたちも、マリアンヌと同じように、自分たちの行動について聞いてほしくなかったのである。
それゆえか、話がひと段落したところで、ワルツは話をごまかすように、話題を切り替えた。
「それじゃぁ、自宅に戻りましょうか。こっちよ?」
と言いつつ、先頭を行くワルツ。そのあとをルシアやテレサ、アステリアが続いていく。
そんな4人に遅れて、マリアンヌも付いていこうとするのだが……。
「もしよろしければ、一緒に行きませんか?マリアンヌ様」
マリアンヌが歩き出す直前、彼女はジョセフィーヌに呼び止められてしまった。
たとえ、ある程度状況が見えるようになってきていたとしても、マリアンヌにとって、ジョセフィーヌからの誘いは最悪だといえた。ジョセフィーヌは、ワルツたちの所業を受け入れて許している様子だが、マリアンヌのことまで許しているとは限らない――いや、許しているはずはなかったからだ。
共に家まで歩くことで何を言われるのか……。いや、そもそも、同じ家に住むという流れになっているのだから、これから先、どんな困難が待ち構えているというのか……。そんなことを考えたマリアンヌは、気が重くて仕方がなかったようである。それでも彼女が、思考を表情に出さなかったのは、これまで王族として培ってきた技能ゆえか。
「……えぇ、いいですわよ?」
否定する選択肢は存在しなかったので、マリアンヌはジョセフィーヌの提案にうなづく。
するとジョセフィーヌは、嬉しそうににっこりと笑みを浮かべて、こう返答した。
「ふふっ。そんなに警戒しないでください。取って食ったりなどしませんので」
「……」
この場面において、取って食うとは、よく言ったものだ……。などと考えながら、マリアンヌはジョセフィーヌの次の言葉を待った。
ところが、なかなかジョセフィーヌからの言葉は飛んでこない。10歩あるいても、20歩あるいても、無言で歩き続けるだけ。
50歩ほど無言の時間が続いたところで、無言に耐え切れなくなったマリアンヌが口を開く。
「……ジョセフィーヌ様。一緒に行く、というのは、何かお話があっておっしゃったのではないのですか?」
さて、どんな返答が戻ってくるか……。マリアンヌは最悪の問いかけが飛んでくることを想定しながら、ジョセフィーヌの言葉を待った。
その結果、ジョセフィーヌから飛んできた言葉は、マリアンヌの予想を明後日の方向に大きく外れたものだった。
「そうですね……。ちょっと聞きにくいことでしたので、聞こうかどうか迷っていたのですけれど……私が話し合いに出かけている間、ポテンティア様とはどのようなお話をされていたのですか?」
「……えっ?」
マリアンヌは思わず耳を疑った。ジョセフィーヌからの問いかけが、まさかポテンティアについてのことだとは思わなかったのだ。




