14.9-49 遭遇49
「ワルツ先生。今日はありがとうございました」
「いや……私、別に何もしてないんだけど……。もしもお礼を言うなら、実際に働いていたポテンティアやルシアに言うといいわ?」
ワルツはライオネル領から戻ってきたワルツたちは、学院ではなく、そのまま自宅のある村へと戻ってきていた。より具体的には、その地下に作られていたポテンティア用の格納庫だ。ポテンティアが先日、ミレニアやジャックを案内した巨大な地下の自室である。
そこにはワルツたちのほか、ジョセフィーヌや彼女の近衛騎士たちもいて、大多数が新たな地下空間を前に棒立ちになっていたようだ。だが、ジョセフィーヌには驚き耐性ともいうべきものが身についていたのか、ポテンティアの部屋(?)を見ても、それほど驚いていない様子で、ポテンティアやルシアに対してお礼の言葉を口にする。
そんなジョセフィーヌの後ろ姿や、いまだ固まったまま動けない騎士たちの姿を見ながら、ワルツは感慨深げにため息を付いた。
「たくましいというか、したたかというか……。国のトップって、このくらいじゃないと務まらないのかしら?」
ワルツが呟くと、魔女マリアンヌが反応する。
「いえ、たとえ王族であろうと皇族であろうと、普通は驚いてしまうと思いますわよ?」
マリアンヌはそういいながら、ワルツの方を振り向くのだが……。
ビュゥンッ!!
「えっ」
ワルツはまるで疾風のごとく、その場から姿を消して、アステリアの背中に隠れてしまった。どうやら、マリアンヌに対して、まだ心を開けていないらしい。
「も、もしかして、私、嫌われてる……?」
マリアンヌが「まぁ、理由は分かりますけれど……」と言いつつしょんぼりとしていると、ワルツを隠すような立ち位置になっていたアステリアが口を開く。
「ワルツ先生はいつもこんな感じですから、気にされなくてもいいと思いますよ?多分、3日もすれば、慣れると思います」
するとワルツが抗議とも、反論とも、あるいは言い訳とも言える発言を口にする。
「こ、これは、条件反射みたいなものなんだから、仕方ないのよ!」
と言いながら、アステリアのスカートの陰から、マリアンヌに上目遣いの視線を向けるワルツ。
幼そうな見た目も相まって、ワルツの態度が子供のように見えたマリアンヌは、思わず目じりを下げたようである。
するとワルツは、子ども扱いされたと思ったのか、文句を言いたげに眉を顰める。それがまた、子供らしいしぐさに見えて……。アステリアも苦笑を浮かべてしまった。
結果、ワルツが、アステリアとマリアンヌに対して激怒していると、3人のところへとジョセフィーヌがやってくる。そんなジョセフィーヌは、ワルツの前までやってくると、彼女のことを子ども扱いするどころか、彼女の前でに跪いた。そして自分よりも目上の人物に対して許可を求めるように、ワルツに向かってこんなことを言い始めたのである。
「ワルツ先生。一つ、お願い事がございます」
「ん?願い?武力を貸せって?いや、さすがにそれは無しよ?そんなことをすればレストフェン大公国をミッドエデンが侵略していることになt――」
「いえ、そうではありません。私たちの拠点をここに移したいのです」
「ん?拠点を移す?」
「はい。今、私たちの拠点といえる場所は学院ですが、そのせいで現状、学院に大きな負担をかけてしまっています。ですから、可能でしたら、学院とは別の場所に拠点を移したかったのです」
ワルツはそんなジョセフィーヌの言葉に首を傾げると……。いったい何を寝ぼけたことを言っているのか、と言わんばかりにこう言った。
「ちょっと何言ってるか分からないけれど、あなたの家って、元々、ここよね?」
「え゛っ……?」
「今もあなたの部屋、残っているわよ?なんだったら、新しい建物を作ってもいいわ?なんていうか……責任感じているのよ。あなたのことを公都から誘拐したこと」
その言葉を聞いて、声にならない声を上げた者が現れる。
「え゛っ……」
マリアンヌだ。彼女は今の今まで、ワルツたちがジョセフィーヌを公都から誘拐したことを知らなかったのである。そしてそのことがきっかけとなり、反乱が起こって、ジョセフィーヌが公都から追い出されてしまったことも、マリアンヌは知らなかったのだ。




