6前前-02 出発前編2
微修正・微加筆済
シルビアとエルメスの感動の再会(?)から暫く経って、2人が落ち着いた頃。
シルビアは母にこれまで自分が何をしてきたのか説明した。
メルクリオの天使から堕天してしまったこと。
その後、ワルツに拾われたこと。
そして、今ではワルツの下で働いているという話をしたところで、エルメスが申し訳無さそうに口を開く。
「あのー、ワルツ様?娘が何か失礼を働きませんでしたでしょうか?」
「いや・・・」
(エネルギアを爆破されたり、部屋の中の物の匂いを勝手に嗅ぎまわったり、意味もなく抱きついてきたり、天使になってコルテックスやストレラを破壊したり・・・・・・んー、その他にあと1人いたような気がするけど・・・まぁいっかそれは)
「・・・・・・いえいえ、いつもシルビアには逆にお世話になっているくらいです」
・・・部下の親御さんを前にした上司の図、である。
「何ですかその妙な間は?」
何やらきな臭いものを感じ取ったシルビアが声を上げた。
「いやー、これまでの事を思い出していたのよ・・・色々あったな・・・って」
「・・・そ、そうですか」
ワルツの『色々あった』と言う言葉にハッとして、青ざめるシルビア。
これ以上追求すると、藪からメデューサ以上の大物が出てきそうな気がしたので、シルビアは話題を変えることにした。
「・・・ところで、何でお母さんはメルクリオで議長なんかしているの?」
「んー、議会の募集をしてるチラシを見て、お父さんに内緒で応募したら受かっちゃった・・・的な?」
「的な、って・・・じゃぁ、お父さんは?」
「今日も、湖で釣り三昧じゃないかしらね?」
「・・・つまり、放置してるのね?」
「うん」
「・・・はぁ・・・」
もうこの家族、嫌だ・・・と言わんばかりの表情を浮かべるシルビア。
だが、家族が離れ離れになっていても、それでも夫婦の仲は円満らしい。
「それでワルツ様。娘はどのような仕事をしているのでしょうか・・・?」
「そうですねー・・・コルテックス?言っちゃってもいいの?」
「えぇ、構いませんよ〜?特に隠さないといけないようなことはさせてませんので〜」
というわけで、直属の上司から許可を貰ったワルツは、シルビアの業務について具体的な例を挙げ始めた。
「直近だと、魔王シリウスからの使者に対する接待でしょうか」
「?!」
「今週中には、魔王シリウスが治めるボレアス帝国に使者の付き添いとして付いて行くようですね」
「えっ?!」
・・・ワルツの容赦無いカミングアウトに、眼を丸くするエルメス。
「・・・あの、お姉さま〜?流石に言っていいことと悪いことがあると思うのですが・・・」
「え?何か拙いこと言った?」
「・・・いえ〜、もういいです・・・」
そしてコルテックスは諦めた・・・。
そんなコルテックスのことはさておき。
ワルツの語った愛娘の業務内容は、エルメスが想像していた中でも最悪に近い内容だったのか、彼女は言葉をつまらせたように口をパクパクさせていた。
そんな母を見て、
「大丈夫だよ、お母さん」
コルテックスとは対照的に、シルビアは明るい笑みを浮かべた。
だが、
「何が大丈夫なものですか!魔王ですよ?魔族なんですよ?!母として、娘をそんな危険な所に向かわせる訳には行きません!」
バン!・・・といった様子で、エルメスは決壊したダムのように言葉を放ち、真っ向から反対する。
・・・しかし、そんな母に対して、シルビアは笑みを崩さずに言った。
「だから、大丈夫だよ。・・・だって、ルシア様の付き添いで行くんだから」
「・・・なら、仕方ないわね」
『えっ?!』
シルビアが『ルシア』の名を挙げた瞬間、エルメスの態度が一変する。
「ルシア様と一緒なら安心できます・・・いえ、例え危険な場所へ向かうとしても仕方ありません。・・・勇者パーティーの一員になるというのなら、私には反対する余地は残されていないのですから」
・・・どうやらエルメスの中では、ルシア=勇者となっているらしい。
つまり、ルシアに同行するシルビアは、勇者の仲間。
即ち、人間側の者達にとっては、誉なのである。
(・・・戦地へ赴くことになるかもしれないけど、その辺はいいのかしらね?)
子が戦地へ向かう事に反対する親は少なくないはずだが、エルメスは、娘とルシアが一緒なら問題ない、と考えているようであった。
尤も、ルシアが戦地へ向かおうとするなら、ワルツが真っ先に反対するか、戦場ごと潰しにかかるのだが。
「出発は明後日。お母さん達が帰った後になっちゃうと思うけど、心配しないでね」
「・・・」
シルビアの言葉に、眼を細めるエルメス。
先程まではルシアという言葉で納得していた彼女だったが、娘に『心配しないで』と言われて、逆に心配になってきたらしい。
「それに、私にはワルツ様もいるしね」
「そうね・・・」
そしてエルメスはワルツの方を向いて、頭を下げた。
「・・・娘のことを・・・何卒、よろしくお願い申し上げます」
「あの・・・お母様?シルビアには危険な事をさせるつもりはないので、もっと気を楽にしていただけませんか?」
・・・ただし、自ら爆発物を抱え込むような行為をする場合を除く。
「いえ、そういうわけにはいきません。・・・娘を神の御下へと送り出すようなものなのです。即ちそれは、生け贄も同然・・・。至らない部分もあるかと思いますが、どうか娘を大切に・・・うぅ・・・」
そう言って涙を流すエルメス。
(娘を戦場に送り出すのは反対なのに、贄として差し出すのはいいの?)
「・・・ねぇ、カノープス?この世界って、私や魔神を見たら娘を差し出すとか、そんな風習あんの?」
狩人の両親の事を思い出しながら、ワルツはそんな疑問を口にした。
「聞いたことは無いな」
「・・・そうよねー」
そんなやり取りをしていると、今度はシルビアが恍惚な表情を浮かべて、口を開いた。
「あぁ・・・まさか、こんな日が来るとは・・・。親公認で、ワルツ様とお付き合いできるんですね・・・!」
「うん、絶対にありえない」
と、一瞬の迷い見もせずに、即答するワルツ。
「・・・今、テレサ様の気持ちが分かりました・・・」
そしてシルビアは、真っ白になって、地面へと静かに崩れ去った・・・。
「それにしても、なんで急に魔物が増えてきたのかしら・・・」
人が住んでいる場所に魔物が寄り付くことは、特殊な場合を除いて、それほど多いことではない。
それは、現代世界の動物たちと同じことで、不用意に人が住む領域とそうではない世界を行き来すると、真っ先に駆除される対象になるからである。
そんな魔物たちが、冬になって食料が無くなったわけでもないのに、わざわざ人の領域を侵すのには、相当な理由が無ければ考えられなかった。
・・・もちろん、普段から人里近くで生活を送る魔物たちはゼロではない。
だが、彼らがいくら畑を荒らした所で、国レベルで農作物に被害が及ぶような問題にはなり得なかった。
・・・少なくとも、これまでは。
「現在、ノースフォートレスへの街道が、3日に2日の割合で通行止めになるほどに、魔物が増えているようですね〜」
机の上にあった報告書の中から一枚を取り出して、内容を口にするコルテックス。
「何?この世界では、秋になると、魔物の大繁殖期でもあるの?」
なお、一般的な動物の場合は、冬から春にかけて、である。
「少なくとも、俺は聞いたことはないな。見たこともなければ、これまでそういったことを経験したこともない」
(そういえばカノープスって、お爺ちゃん・・・じゃなくて、高齢・・・でもなくて、随分、年が上だったわね・・・)
カノープスの年齢を、どう表現していいのか分からなくなるワルツ。
「・・・おい、ワルツ。今、何か失礼な事を考えなかったか?」
「ん?いや、別に?(鋭いわね・・・)」
・・・そんなやり取りをしていると、
コンコン
「失礼します」
ユキが現れた。
(あぁ・・・彼女、確かカノープスよりも、さらに歳上なのよね・・・)
日々の身長が、その日の気温によって増減するユキに、何とも言い難い視線を向けるワルツ。
なお、今日の身長は137cm程度なので、気温は23度程度だろうか(L=160-T[cm] 但しTは摂氏)。
「・・・あの、ワルツ様?今、何か失礼な事を考えていませんでしたか?」
「ん?そんなことないわよ?(貴女も鋭いのね・・・)」
「そうですか・・・」
そう言いながら部屋に入ってきたユキは、カノープス達を一瞥して会釈した後、コルテックスに話しかけた。
「あの、コルテックスさ・・・えっと、コルちゃん?今、お客様が来ているようだけど、話は後にしたほうがいい?」
「いえ。ユキちゃんには、この場で幾つか伺いたいことがあったので、お呼びしました〜。このまま同席していただけると助かります」
どうやら2人とも、ルシアの影響で『ちゃん』付けで呼び合っているらしい。
コルテックスはそう言ってから、議長席を立って、ユキの隣に移動すると、カノープスたちの方を向いて言った。
「彼女がボレアス帝国から派遣されてきた使者のユキちゃんです。・・・魔王の国、といえば分かりますかね〜?」
「・・・」
「!」
反応の別れるカノープスとエルメス
カノープスの方は、娘役のストレラから、話を聞いているようである。
なお、ユキの方も、コルテックスが見ず知らずの他人に自分の正体を突然のカミングアウトしたことに驚きを見せていたが、ワルツがこの場にいることを思い出して、相手が身内の人間であることを悟り、すぐに落ち着きを取り戻していた。
「ま、魔族・・・」
「えっと・・・はい。確かに魔族です」
「・・・」
これまで聞いてきた魔族の印象とは違うのか、ユキの姿を見たエルメスは、複雑な表情を浮かべる。
「・・・っていうか、ユキで驚いてたんじゃ、この国と付き合えないわよ?ユリア?いるん『はい!ワルツ様!!』でしょ・・・」
ドゴォォォッ!!
ワルツが言い終わる前に、クローゼットの扉を半ば破壊して、中から飛び出てくるサキュバス。
開け放たれたクローゼットの中に隠し階段があるところを見ると、恐らく情報部のオフィスにでも繋がっているのだろう。
「サ、サキュバス?!」
「えぇ、そうよ?他にも、鬼人や狐人もいけるど・・・私からすると、人間と魔族の違いは全く分からないわね。っていうか、ルシアやテレサも狐人だけど」
出てきたユリアに重力制御をかけて近寄らせないようにしながら、窓の外へと視線を移すワルツ。
王都の町中では、オークやリザードマン、狼男まで、現代世界の知識に当てはめるなら魔族としか言いようが無い人々が一緒くたに暮らしていたが、この世界では紛れも無く『人間』である。
では、一体どこに、人間と魔族を分けるボーダーラインがあるというのか。
「・・・もしかして、私を呼んだ理由って、人間と魔族の違いを説明してほしいから・・・とかですか?」
「いいえ、違いますよ〜?・・・ですが、ちょうどいい機会なので、説明していただけると助かります」
「はあ・・・分かりました」
するとユキは、今もなお、人間と魔族の違いについて悩んでいる様子のエルメスに向かって苦笑を浮かべながら言った。
「・・・簡単なことです。生まれた場所の違いですよ?」
「えっ・・・?!」
その一言に、更に困惑の度を深めるエルメス。
「ねぇ、エルメス?魔族って一体どういうものだって考えていたの?」
ワルツが問いかけると、
「あの・・・私から説明します」
エルメスの隣りに座っていたシルビアが、母の様子を見て、代わりに口を開いた。
「・・・『残忍』『極悪非道』『冷徹』『何を考えているか分からない』『人でなし』・・・これで分かりますよね?」
「・・・言葉と宗教の異なる外国人に対する印象・・・ではないわね。教育のせいかしら?」
「はい・・・」
そう言いながらシルビアは眼を伏せた。
「もちろん、魔族の方々がそんな人達でないことは、ワルツ様方と一緒に過ごしてきた中で、十分に理解しています。ですけど、世間的にはそういった考えを持つ人達は殆どいなくて、いたとしても異端的な考え方をしていると言われて村八分にされたりするんです・・・」
「そう・・・面倒ね」
「はい。全くその通りだと思います」
と、ワルツの言葉に同意するシルビア。
とはいえ、残念ながら、国家レベルで老人から子供まで浸透してしまっている考え方を直ちに改めさせることは、ほぼ不可能であった。
誰かが現在の考え方に異論を唱えたとしても、シルビアの言う通り、排除の対象になるだけなのである。
たとえそれが、政府からの通達だとしても、一体どれだけの人々が従うだろうか。
「・・・本当、そう考えると、ルシアを勇者にするって決めなくて良かったと思うわ・・・」
そう言いながら、溜息を吐くワルツ。
・・・そう、世界の半分の『人間』達にとっての勇者は、もう半分の『人間』達にとってのテロリストに他ならないのだから。
エルメスが復帰するのを待って、コルテックスはユキに本題を告げた。
「ユキ様〜。一点お聞きしたいのですが、答えにくいようでしたら断っていただいても結構です」
「はい、分かりました。何でしょうか?」
「ミッドエデンの北方に位置するボレアス帝国では、最近のミッドエデンやメルクリオのように、魔物の大量発生は報告されていないのでしょうか〜?」
するとユキは、思い出すような素振りを見せてしばらく考えた後、口を開いた。
「いいえ。増えているという報告も、減っているという報告も聞いたことはありません。ただ、ボクがビクセンを出発したのはもう1ヶ月以上前のことなので、もしかすると、情勢は変わっているかもしれませんが・・・」
「そうですか〜・・・大体、把握できました〜」
『えっ』
ユキ自身は分からないというのに、コルテックスは彼女の言葉から把握できたらしい。
「・・・あまりこういうことは言いたくないのですが〜・・・」
そう言いながらコルテックスは窓の外へと身体を向け、暫く間を置いてから言った。
「・・・多分、魔族領域で何かがあったみたいです」
「えっ・・・」
「魔物の繁殖期の周期、1ヶ月前には問題が無かったミッドエデンとボレアス、そして北方での魔物の出現数が極端に多いこと・・・これらを加味すると、つまり〜」
「・・・魔物たちが、何らかの理由で魔族領域から追い出されて、この地にやってきた・・・ってことですね・・・」
「そういうことになりますかね〜」
「・・・」
コルテックスの思考に追いついたユキが顔色を変える。
そしてユキが何かを口にしようとした・・・その時であった。
グオォォォォォォ!!
議長室の窓をビリビリと振動させる咆哮のような音が聞こえてくる。
「・・・?何かしら?」
ワルツが窓を開けて、テラスへと出てみると・・・、
グオォォォォォォ!!
グオォォォォォォ!!
「・・・は?」
・・・どういうわけか、王都の城壁の外で、怪獣大決戦な光景が繰り広げられていたのである・・・。
眠いのじゃ・・・。
眼をこすると痒くなるのじゃ。
かゆうまなのじゃ。
・・・いや、かゆねむ・・・かのう?
ま、拙いのじゃ・・・眠ると内なる妾が覚醒して・・・・・・代筆してくれるといいのじゃがのう・・・zzz。




