14.9-48 遭遇48
その後、しばらくしてから、ワルツたちは領主との会談を終える。会談の内容は、大したものではなく、再度、日を改めて、会談を開き直すという結論になったようだ。その場には領主ライオネルしかいなかったので、まともな話にならず……。会談に参加する予定だった貴族たちをライオネルの方で改めてまとめ上げて、再度、会談の場を設定するという話になったのである。
他、決まったことを強いて言うなら、ライオネルがジョセフィーヌに忠誠を誓ったくらいのものだ。彼にとっては、ここでジョセフィーヌの敵になって空中戦艦ポテンティアに領地ごと滅ぼされるか、それとも地位を維持したままで勝ち馬に乗るか、という2択を迫られた形になっていたのである。
むしろ、ライオネルにとって、選択肢は1つしかなかったと言って良いだろう。前者は選択肢ではなく、単なる自殺行為。彼にはジョセフィーヌに忠誠を誓うという選択しか残されていなかったのだ。
結果、ワルツたちは、領主の館前で待機(?)していた近衛騎士たちと合流し、ポテンティアへと戻ってくる。ライオネルが忠誠を誓ったとはいえ、ライオブルクは未だ敵地のど真ん中。ゆっくりと観光を楽しめるような状況ではなかったのである。町の人々も、ワルツたちの事を警戒しているのだから尚更だ。
そして一行は町を出る。町を出て、固まった。
「……ごめん。私の目が節穴なのかしら?ここって、こんなに凹凸が激しかった……というか、迷路っぽい地形になっていたっけ?なってなかったわよね?」
町の正門前で唖然として立ち尽くしていた人だかりと、彼らの視線の先に広がる光景を見たワルツは、半ば本気で自分の目を疑った。というのも、正門前には、ライオブルクの正門や市壁よりも高い壁(?)ができあがり、ワルツたちの行く手を阻んでいたからだ。しかもご丁寧に、"壁"にはこれ見よがしな様子で入り口が開いており、迷路でもあるかのようだった。
「まさか……私たちに対する攻撃?」
ジョセフィーヌに反抗的な態度を見せる貴族たちの、新手の嫌がらせか……。ワルツがそんな事を考えていると、どこからともなくポテンティアの声が聞こえてくる。具体的には、地面の下からだ。
『ワルツ様。申し訳ございません。僕の不始末です。兵士たちと戯れていた関係で、船体を中心に迷路とトラップタワーを作っており、大地を少々荒らしてしまいました』
「ふーん……まぁ、迷路を作ったっていうのは分からないでもないわ?でも、トラップタワーって……何?」
『予想よりも襲撃してくる兵士の数が多く、迷路だけでは対処しきれない可能性がありましたので、水を使って流したり、大きな丸い岩を転がして追い回したり、落とし穴を作ったり、強力な電磁石を配置して鎧をくっつけてみたり……まぁ色々とやって、兵士の方々にはスリルを味わって頂きました』
「……死人は何人出たのかしら?」
『いえいえ、死人は出ていませんよ。ちょっとした打撲と捻挫で、全治2週間くらいの怪我を負って頂いたくらいです。……ほぼ全員にですが』
「そう……なら良いわ?」
それは良いと言えるのか……。2人の話を聞いていた者たちは、ほぼ全員が首を傾げていたようだが、そんな中で例外的な反応を見せる者が現れる。ジョセフィーヌだ。
「もしやポテンティア様は、お一人ですべての兵士たちを一網打尽にしてしまったというのですか?」
『一網打尽……えぇ、言い得て妙ですね。ちょうど上手い具合に、網の中に捕らえているのですよ。見ます?』
「ちょっと見てみt——」
「いやいやいや、見せなくても、出来るって分かってるから良いわよ」
『それは残念です』
「ちゃんと、野に放しなさいよ?持って帰りたいとか言わないでよね?」
『いえいえまさか。そんなペットを扱うようなことは言いませんよ』
「あと、この場所を元に戻しておくように」
『良いのですか?見せしめの効果と、この町の新しい名所になるかと考えて、敢えて残しておこうかと考えていたのですが……』
「ああ、そう……。ならこのままでいっか」
「ちょっ……」
良いわけがない……。流石のジョセフィーヌであっても、町の人々が経済的・物流的に被害を被る可能性の高い迷路を町の周囲に放置するのは流石に見過ごせなかったらしく、彼女は慌てて迷路の撤去を求めたようである。その結果、ポテンティアは、せっかく作った迷路だったためか、渋々といった様子で片付けることになった。
こうして、ライオブルクの周囲にあった迷路は、幻か何かのように消え去って、真っ平らな地面に戻るのだが、罠も何も残っていないのに多数の怪我人だけが残るという謎の状況になり……。事態を知らない領主ライオネルは、より一層の大混乱に陥ったのだという……。




