14.9-47 遭遇47
「「お客さん?」」
『えぇ、お客さんです』
と、ポテンティアが口にすると、艦橋の全方向ディスプレイに、新たな画面が追加される。
画面には、遠くから近付いてこようとしている兵士たちの姿が映し出されていた。どうやら、空中戦艦が動かなくなったことで、皆、好機だと思って近付いてきたらしい。格納庫に繋がるハッチも開きっぱなしなので、そこを目指しているのだろう。あわよくば、横取り出来ないものか……。そんな事を考えているのかも知れない。
そんな兵士たちは、当然のごとく1人や2人ではなく、数百人規模で近付いてきていたようだ。それも、1方向ではない。東西南北四方八方から、ポテンティアを取り囲むようにして近付いてきていた。
「ど、どうされるのですか?!」
「……まさか、攻撃するんですか?」
『攻撃する、というのも一つの手ではありますが、今のところ攻撃するつもりはありません。対等の力を持った相手であればまだしも、相手はほぼ生身の人間と言える程度の装備でしかありませんからね。彼らを攻撃した場合、ただの弱い者イジメになってしまいます。なので、適当に遇って、お帰り願おうと思います』
ポテンティアがそう口にした直後。空中戦艦の方のポテンティアに大きな変化が生じる。船体から黒い液体が染み出すように、滴下を始めたのだ。ポテンティアを構成するマイクロマシンたちが船体から分離し始めたのである。彼らは地面に落ちると、土の中に浸透して、すぐに姿を消してしまう。
そんな光景が艦橋のモニターに映し出されていたわけだが、その様子を見ていたマリアンヌが、不思議そうにポテンティアへと問いかけた。
「ポテ様?あれは何なのですの?まさか、この空飛ぶ船が壊れた……わけではありませんわよね?」
彼女が油漏れを知っているかどうかは不明だが、彼女の目には、空中戦艦が壊れたように見えたらしい。
一方、アステリアは、マリアンヌよりも幾分はポテンティアとの付き合いが長いので、何となく事情を察していたようである。とはいえ、ポテンティアの正体を知らないだろうマリアンヌの前で、彼の正体を話して良いのか判断が付かなかったらしく……。アステリアは黙って話を聞くことにしたようだ。
『もちろん、壊れたわけではありませんよ?まぁ、見ていて下さい。ちょっとした人払いの魔法を使いますので』
ポテンティアがそう口にした直後のことだった。周囲の大地を地震のような震動が襲ったのだ。
その結果、先ほどまで平らだったはずの地面に変化が生じる。ポテンティアを中心にして、地面が同心円状に隆起と陥没を繰り返し、波状の模様が出来上がったのだ。
しかし、それは、ポテンティアのドローンを使って、遠目から観察した際の話。近くで見れば、高さ20m、波の間隔が10mほどという、まるで壁のような波が、幾重にも重なって出来ているかのように見えていた。
そんな場所を人が歩いてポテンティアに近付く事は、まぁ、不可能ではないはずだが、どれほどの労力を必要とするのかは、想像を絶するとしか言いようがなかった。砦の壁が幾重にも発生したようなものなのだ。一番近くにいた部隊が、ポテンティアに近付くまでには、丸一日程度は掛かるに違いない。
しかしそれで終わらないのがポテンティアだった。
『対策はこれで十分ですが、せっかくですからもう一つ、趣向を凝らしてみましょう』
彼がそう口にした瞬間、周囲の地面に再び変化が生じる。再度、地面の隆起と陥没が始まって、地面にとある模様を作り出し始めたのだ。
それは紛うことなき迷路だった。空中戦艦を中心にして、作られた波状の壁同士が、所々で繋がり、また所々で行き止まりとなって、兵士たちの行く手を阻んだのである。
「これは……」
「迷路、ですわね……」
『えぇ、迷路です。壁を越えれば、最短時間でここまで辿り着くはずですが、迷路状になっていると……さて、人はどう動くのでしょうね?僕たちも空から迷路を観察しつつ、攻略経路を考えてみましょう。ワルツ様が戻ってくるまでの暇つぶしです』
ポテンティアはそう言って、笑みを浮かべた。そんな彼の笑みを見たアステリアとマリアンヌは、率直にこう思ったようである。……ポテンティアは実のところ、性格が悪いのではないか、と。とはいえ、それも一瞬の事で、すぐに彼女たちの頭から蒸発してしまう程度のことでしかなかったようだが。




