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14.9-44 遭遇44

「本当に、誰もいないわね……」


 大人数でライオブルクまでやってきたは良いが、怯える町の人々以外に誰もいない、という状況の中、ワルツたちは領主の館の中を彷徨っていた。大きな館を切り盛りするなど、貴族だけでは到底不可能なので、たとえ彼らが逃げ出したのだとしても、人っ子一人いないというのは、ありえない事だった。メイドの1人や2人くらいは残っているはずなので、彼女たちに事情を聞こうとした、というわけである。


 ところが、どこを探しても、貴族どころか、メイドたちの姿すら見つからず……。もしや、全員が逃げ出したのではないかと、ワルツが考え始めていたころ。


「お姉ちゃん」


 ルシアが徐に問いかける。


「ん?」


「お姉ちゃん、生き物がどこにいるのか、分からなかったっけ?あれを使えば、人がどこに隠れているかも分かるんじゃないかなぁ?」


 かつてワルツが生体反応センサーを使い、魔物や人間を探していたことを、ルシアは思い出したらしい。


 しかし、機動装甲を失った今のワルツには——、


「ごめんね、ルシア。今の私にはちょっと無理」


——生体反応センサーのみならず、様々な機能(ちから)を使う事が出来なかった。ミサイルを発射したり、荷電粒子ビームを放ったり、マイクロブラックホールを作り出したり……。どこにでもいるようなただの少女に近い能力しか使えなかったのである(?)。……まぁ、目や指先からレーザーを出したり、凄まじい腕力を発揮したり、あるいは空を飛ぶことくらいは出来るようだが、それでもルシアの下位互換程度でしかなかったようだ。ちなみに、ルシアが目からレーザーを出した事はない。


 ルシアもできるだけ姉の機能制限の話には触れないようにしていたようである。姉が機動装甲を失ってしまったことを気にしていると知っていたからだ。


 ゆえに、意図せずワルツに機動装甲のことを思い出させてしまった状況に、ルシアは焦った。


「え、えっと……そ、そうだ!魔法を使って部屋の中に人が隠れていないかを探してみるね!」


 そう言って、彼女が浮かべたのは、無数の光魔法——人工太陽。その一つ一つを介して、ルシアは景色を覗くことができるのである。学院の図書館で教科書を探す際に使っているのも人工太陽だ。どうやらルシアは、人工太陽を屋敷中に放ち、探し漏らしがないかを確認するつもりらしい。


 一方、彼女が人工太陽を浮かべてからというもの、酷く険しい表情を浮かべていた者がいる。テレサだ。


 彼女はまるで危ないものでも空中に浮かんでいるかのように、人工太陽から1歩2歩と後ずさって、苦言を口にする。


「ア嬢。それ、危ないやつなのじゃ」


「危ない?」


「図書館でもそうなのじゃが、本やカーテン、絨毯、木造建築など、可燃物のある場所でもしもコントロールを間違えたなら、危険ではないか?」


 一歩間違えれば、火災に繋がるのではないか……。と思うテレサだったものの、どうやら実情は違うらしい。


「あー、それは大丈夫かなぁ?威力を落とすことはできるしね。それに、もしも可燃物とかに当たっても大丈夫だよ?燃える前に吹き飛ぶから」


「……それ、大丈夫っていわな——」


 大丈夫って言わない……。テレサがそう口にする前に、ルシアが動く。


「すみませーん、どなたかいらっしゃいませんかー?」


   ズドドドドド!!


 ルシアは人工太陽を、屋敷の扉という扉に当て始めたのだ。そのせいで、扉が木っ端微塵に吹き飛んで、中が露わになっていく。やはり彼女も"自重"という言葉の存在を知らないらしい。……どこかの姉たちのように。


 この時、テレサがどんな表情を浮かべていたのかは、説明を省略する。敢えて言わずとも彼女が浮かべる表情は、1種類しかないからだ。


「……もしも逃げ遅れた者が残っておったとしても、これはもうダメかも知れぬのう……」げっそり


 それから間もなくして、逃げ遅れていた人物が見つかることになる。それも領主その人が、だ。


 彼はどこに隠れていたのか……。具体的には、ルシアたちが立っていた場所の、目の前にある部屋だった。


 そこにはこう書かれていたようである。


 『お手洗い』と。


自重すべきは妾の文章か……。

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