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14.9-41 遭遇41

   ゴォォォォォッ!


 学院から馬車で移動して3日ほど進んだ先にある平野に、轟音と暴風が吹き荒れる。空には黒い大きな影のようなものが浮かんでいて、その謎の物体から、猛烈な勢いで風が吹き出していたのだ。


 その近くには、ライオネル領の中心地とも言うべき町、ライオブルクがあって、そこにいた者たちは、例外なく、恐慌状態に陥っていたようである。


 迫り来る黒い物体を見て、ある者は「ド、ドラゴンだっ!!」と声をあげ、またある者は「はははは……終わったな」とすべてを諦め、またある者は「に、逃げろっ!!」とその言葉通りに逃げる始末。特に、周囲の領地からライオブルクに集まってきていた兵士たちの間でその傾向は大きく、まさしくクモの子を散らすように、彼らは散り散りになって、逃げていった。上官も下官も兵士も関係無い。町の外に駐留していた者たちは、例外なく一斉に逃げ出していった。


 その様子を、黒い物体——もといポテンティアの中から眺めていたワルツは思う。


「ジョセフィーヌにこう言うのは間違っているのかも知れないけれど……貴女の所の兵士たちって……ちょっと臆病すぎない?」


 ワルツは逃げていく兵士たちの反応だけを見て、兵士たちの指揮が低すぎるのではないかと考えたようだ。


 艦橋からでは自分たちがどう見えているのか分からなかったためか、ジョセフィーヌもワルツの言葉に首肯する。


「えぇ……お恥ずかしながら。もしも講和が成立したら、精神的な訓練を強化した方が良いかも知れません。敵前逃亡は処刑に値しますので」


「……彼らは貴女の国民、って、言ってなかったっけ?」


「それはそれ、これはこれです」


「あ、うん……そう……」


 艦内ではそんな柔和な(?)やり取りが交わされていたわけが、外からポテンティアを見上げていた兵士たちは、依然として逃げ回っていた。太陽の光を一切光を反射しない禍々しい黒い物体が、轟音を上げながら迫り来るのだ。その大きさを地球にあるもので例えるなら、巨大なタンカーか、空母か、戦艦か……。それほどまでに大きな物体が、地面を物理的に削り取りながら迫ってくるのだから、兵士たちがどれほどの恐怖を感じていたかは、想像を絶するとしか言えないだろう。


 それでもやはり、ワルツたちが真実を知ることはできない。彼女たち——主にワルツは、逃げ惑うアリたちのごとくその場から逃げ出そうとする兵士たちの集団のド真ん中へと空中戦艦ポテンティアを進めた。


「んー、これはやっぱり、精神的な特訓が必要かも」


「返す言葉もございません……」


 ワルツとジョセフィーヌが、それぞれ兵士たちに対する感想を口にしていると、おもむろに艦橋の中に、画面が複数浮かび上がる。所謂ポップアップウィンドウだ。2忍の話を聞いていたポテンティアが、気を利かせたのだ。


 そこには、艦橋とは別の視点から外の兵士たちの姿が複数映っていた。空から俯瞰的に見た映像、離れた場所から兵士たちの動きを観察するかのような映像、そして、映画のワンシーンのように逃げ惑う兵士たちの表情だけをピンポイントで捉えた映像などなど……。モニターを見るだけで、なぜ兵士たちが逃げていくのかを一目で分かるようになっていた。ポテンティアが分体(ドローン)を派遣し、撮影しているらしい。


 結果、ワルツたちの視線は、ポップアップウィンドウに釘付けになった。誰もが言葉を失いながら、ぽかーんと口を開けたまま見つめたのだ。


 それから間もなくして、ポテンティアの船体が、ライオブルクの町に到達する。ワルツが操船を止め、追い回すのをやめたのだ。


「……ま、まぁ、あの兵士たちの気分も分からないではないわね……」


 この時点で、ワルツの意見は180度変わっていたようである。VFXでも表現できなさそうな迫力ある映像に、感銘(?)を受けたらしい。


 こうしてワルツたちは、無事にライオブルクに到着するのだが、空中戦艦ポテンティアのハッチを開けて、外に出ても、出迎えの一つも無かったようである。兵士たちは、ポテンティアから十分以上に離れた場所に逃げていて、そこからジッと成り行きを観察していたのだ。


 町の方からも迎えは来ない。どうやら皆——いや、理由は不明だ。


「迎えも無し、か……。ジョセフィーヌ?貴女、もしかして嫌われているんじゃないの?」


 ワルツが冗談半分で問いかけると、ジョセフィーヌは苦笑しながらこう言った。


「えぇ。ですから、私はここに来たのですよ。誤解を解いて、対話を行うために」


 と、微妙にズレている返答をするジョセフィーヌだったが、ワルツにとってはあまり気にならなかったらしく——、


「ま、とりあえず、領主の館だか何だかに行ってみましょうか」


——彼女は明るい口調でそう口にすると、空中戦艦ポテンティアから地面へと降りていったのである。……ただし、ジョセフィーヌの後ろから。


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