14.9-39 遭遇39
「ん?2人ともそこで、コソコソ何やってるの?っていうか、マリアンヌ?顔が赤くない?風邪?無理は良くないわよ?病み上がりなんだから」
「い、いえ……大丈夫です」
『えぇ、何でもありません』
「あ、そう……。まぁ、何でも良いけど。ところでさ?進路はこのままで良いのかしら?」
優に100人ほどは人が入れそうな艦橋の中で、ポテンティアとマリアンヌは、なぜわざわざ端の方に寄って会話をしているのか……。ワルツは気になっていたようである。2人とも何か怪しいな、と。
とはいえ、ワルツとしては、そのことを深く掘り下げようとは思わなかったようだ。そんなことよりも、空中戦艦ポテンティアがどこに向かっているのか、気になっていたからだ。空中戦艦の移動速度を考えれば、馬車で数日の距離など、ほぼ一瞬で通り過ぎてしまう程度の距離でしかないのである。目的地を明確にしておかなければ、一瞬で通り過ぎてしまうのではないか……。ワルツはそんな懸念を持っていたらしい。
対するポテンティアも、目的地がどこにあるのか分かっていなかったようである。とはいえ、適当に飛んでいた、というわけではない。
『ジョセフィーヌ様方がいらっしゃった道の先のどこかに目的地があるものと推測されますので、一先ずは街道上空を飛行しております』
ジョセフィーヌたちが進んでいた街道を辿れば、そのうち足下に、人工物らしきものが見えてくるのではないか……。そしてその場所が目的地なのではないか……。それがポテンティアの予想だった。
実際——、
「あぁ、そういうこと?じゃぁ、あれね」
——街道の先を辿ると、城らしき建物が見えていた。そこがライオネル領の中心部らしい。
「ジョセフィーヌ?あれが目的地で良いのかしら?」
ワルツが地上にある城や町並みを指差しながら、ジョセフィーヌに対し、確認を取る。
すると、景色を楽しそうに眺めていたジョセフィーヌは、どういうわけか、「んー……」と唸ると……。複雑そうな表情で返答した。
「おそらく……あの町が目的地なのだと思います。ただ、私の知っている地図と、実際にこうしてみる景色がかなり異なっているので、確証はありません」
正確な測量方法が存在しないレストフェン大公国においては、正確な地図は存在しなかった。なんとなくどの方角に山や森、川などのランドマークがあって、なんとなく国の形がこんなかたちをしていて、なんとなくこの辺に公都や学院がある……。そんな落書き紛いの適当な地図しか無かったのである。それでも、一般人が手に入れられるような代物ではなく、国家機密級の扱いを受けていたようだが。
ゆえに、全土の地図を暗記しているジョセフィーヌであっても、本当にその地がライオネル領かどうかは分からなかったらしい。直接言った事があれば話は別だったかも知れないが、彼女はライオネル領に言った事が無かったのだ。
結果、ジョセフィーヌは助っ人に頼ることにしたようだ。
「騎士バレストルに聞いて貰えれば、正しい位置が分かると思います。彼ならライオネル領に行った事があるはずですので」
「なるほどね。っていうか、彼もポテンティアに乗っているの?艦橋には来ていないけど……」
ワルツがポテンティアに問いかけると、ポテンティアから首肯が返ってくる。
『格納庫にいますよ?』
「ふーん……」
『…………?』
「…………?」
『……もしかして、僕に聞いてこいと?』
「よく分かってるじゃない」
『また、人見知りですか?』
ポテンティアが問いかけると、ワルツはスゥッと視線を逸らした。どうやらワルツにとってバレストルという人物は、いまだ知人のレベル(?)に到達しておらず、人見知りの対象のままだったようである。
こうしてポテンティアは、元々呼ぶ気のなかったバレストルのことを、艦橋に招くことにしたのであった。




