14.9-37 遭遇37
ジョセフィーヌに忘れられて、その場に取り残されてしまう騎士たちだったものの、彼らはポテンティアの招きによって、どうにか事なきを得る。
『さぁ、皆さんも乗って下さい』
案内するポテンティアに従い、騎士たちは大きくハッチを開けた空中戦艦の格納庫へと足を踏み入れた。
その内部には何も無かった。真っ黒で巨大な空間が広がっているだけだ。壁につなぎ目はなく、配管が通っている訳でもなく……。更に言えば、扉すら見つける事が出来なかった。のっぺりとした真っ黒な空間に、何か光る光源が天井で輝いている、といった光景だ。
「「「なんだこれは……」」」
バレストルや騎士たちの感想は、その一言に尽きた。艦内の光景は、理解の度を超えていたのだ。
彼らは以前、エネルギアの格納庫を見たことがあった。その際、彼らは、壁や天井にビッシリと張り巡らされた配管の姿や、ガスで動く自動ドアの姿などを見て、ミッドエデンの科学力に驚いたのである。
ところが、いま彼らが乗っている"名も知らぬ空中戦艦"の内部は、前述の通り、何も無いのだ。あまりに何もなさ過ぎて、まともな感想の一つも言えず……。騎士たちは困惑している様子だった。
そんなバレストルたちの表情に気付いたのか、ポテンティアはジョセフィーヌのことをエスコートして、どこかへと向かおうとしながら、騎士たちにこんな言葉を残していった。
『飛行中は暇だと思いますので、こちらの景色でもお楽しみ下さい』
と、ポテンティアが口にした途端である。真っ黒な壁や床、天井が、ユラリと蠢いたように見えたかと思うと、急に光ったのだ。そして、壁などないかのように、外の景色を映し出し始めた。
「「「んなっ?!」」」
その光景を見ていたバレストルたちは、しばらく硬直し……。ポテンティアとジョセフィーヌがその場からいなくなった後で、思う。
「……俺らとあいつらミッドエデン人って、同じ人間なんだろうか?」
「あまりに技術のレベルが違いすぎますよね……」
「あのミッドエデン人たちは、何しにレストフェンにやってきたんだろう……」
違いすぎる技術水準に、彼らは恐怖していたようである。ミッドエデンがやる気になれば、レストフェン大公国どころか、全世界を征服することだって可能なのではないか……。彼らはそんな事を考えたのだ。
ただ、それと同時に、彼らはすぐさま、自分たちの考えを否定した。ミッドエデンのように、異常ともいえる力を持った国があることを、彼らは知っていたのである。その国がある以上、世界征服することは不可能……。そう断言出来るほどの国が、この大陸にはあったのだ。
◇
『こちらが本艦の艦橋……つまり、操縦するための部屋となります』
ポテンティアは、ジョセフィーヌのことを、自身の艦橋に案内した。艦内の見た目は姉妹艦とは大きく異なるが、位置関係的にはエネルギアと同じ場所に艦橋が作られていたようだ。
全方向ディスプレイで、どの方向の景色も見られるという点も、エネルギアと同じだった。宙に浮く座席もエネルギアと同じ。異なるのは、戦隊のステータスを表示するホログラムモニターなどが宙に浮かんでいないことくらいである。
そんな艦橋にはワルツ、ルシア、テレサ、アステリア、それにマリアンヌとポテンティアの姿もあって、彼女たちは、艦橋にやってきたジョセフィーヌに対して、安堵の表情を向けていたようである。
「あぁ、良かったわ。ジョセフィーヌ。まだ、移動中だったのね」
ワルツはジョセフィーヌに向かって話しかけた。だが、ジョセフィーヌは、艦内の光景に理解が付いていかず、混乱していたようである。
「これは……何なのですか……?」
ジョセフィーヌもまた、近衛騎士のバレストルたちと同じく、黒い空中戦艦に戸惑っていたようである。圧倒的な技術力の差に戦慄し、自分がまるで文明の未発達な原始人のようですらあると考えていたようだ。
そんな彼女の困惑を、珍しく感じ取ったのか……。ワルツは両腕を腰に当てながら、まるで黒い空中戦艦が自分のものであるかのように、こう口にした。
「ふふん。これはポテンティアよ!」
「ポテ……えっ?」
ジョセフィーヌが耳を疑った時、本人が口を開く。
『ようこそ、ジョセフィーヌ様。そして改めて、ようこそ、マリアンヌ様。本艦はポテンティア。ミッドエデン共和国エネルギア級2番艦ポテンティアです。以後お見知りおきを』
そう言って頭を下げるポテンティアだったが、説明を受けたジョセフィーヌもマリアンヌも、黒い空中戦艦がポテンティアそのものだとは思わなかったようである。ポテンティアはきっと、栄えある空中戦艦から名を貰ったのだろう……。その程度の認識だったようだ。




