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14.9-32 遭遇32

「……って訳なんだよ。それで寝られなくてな……」


『なるほど。ところで……とても言葉を選んで説明されていたようですが、それはもしかして……隠語でしょうか?』


「えっ……ちょっ……なんで話がそっちに行くんだよ!」


 ジャックは、地下空間のことや、皇女のマリアンヌのことについて一切喋らず、オブラートに包んで、今日あった出来事を同居人(?)に説明した。その際、オブラートが厚すぎたためか、同居人(?)からすると、ジャックが隠語を話そうとしているように聞こえたようである。


「隠語じゃねぇし。言葉の意味通りに受け取れよ」


『そうですか。しかし、今日もミレニアさんと共に行動するとは、彼女と仲が良いのですね?』


 同居人(?)が問いかけると、ジャックは特に気にした様子無く返答する。


「まぁな。あいつとは小さな頃からの付き合いで、兄弟みたいなものだからな」


『……それだけですか?』


「それだけって……他に何かあるのか?」


『率直に言いますと、恋愛感情は抱いていないのかと思いまして』


「恋愛感情?あぁ、ないな。ミレニアのやつ、口うるせぇから、ずっと一緒にいると疲れるとしか思えねぇし、向こうだってこっちのことなんか微塵も思っちゃいねぇと思うしな」


『そうですか。僕からすれば、ジャックさんとミレニアさんは、とても相性が良さそうに見えますけれどね』


「それはない。それに、今、あいつの目には、俺じゃなくて別のやつが映ってるんだ」


『別のやつ?』


「あぁ。さっき言ってた、最近出来た新しい友達だ。どうもミレニアのやつ、そいつのことが好きらしくてな……」


『それは……ご愁傷様です』


「ご愁傷……いや、だから、俺はミレニアのことが好きとか嫌いとかじゃないからな?」


 ジャックはそう口にした後、大きな溜息を吐いて、そしてこんなことを言い始めた。


「実は、な……俺も最近、気になっている子がいるんだ」


『おっと、のろけ話ですか?』


「違っ……。そもそも、こっちの気持ちなんて、まだ微塵も伝えられてねぇよ」


『それはもしや(ただのヘタレでは)……いえ、何でもありません。何故です?何故、気持ちを伝えないのですか?』


「実は……ミレニアが好きなやつと、俺が好きなやつが、同じかも知れないんだ」


『……つまり、ジャックさんは、男の子が好きだと?まぁ、考えは人それぞれなので、否定はしないですが——』


「ちょっ……んなわけねぇだろ!」


 ジャックは思わず上体を起こした。流石に黙って聞いていられなかったらしい。とはいえ、時間が時間だったためか「お前、明日覚えておけよ……」と言って再び横になる。


 それから彼は、同居人がまともに話を聞いてくれないと思ったのか、そのまま不貞寝することにしたようだ。明日は朝早く起きて、土魔法の練習をするつもりだったので、くだらないツッコミをする同居人には構っていられないと思ったらしい。


 対する同居人(?)も黙り込んで……。気付くとジャックは夢の中へと旅立っていたようだ。


  ◇


 次の日の朝。夜更かししたせいか、予定通りに起きられなかったジャックは、同居人と共に朝食を口にすることになった。その際、彼は、声の太い同居人からこんなことを言われたようである。


 ……女の子と話し込むなら、寮の自室に連れ込まずに別の場所で話でくれ、と。


 そんな同居人の言葉を聞いたジャックは、言葉に尽くしがたい表情を見せていたようである。大混乱に陥ったのだ。


 一体、何が何だか分からない……。そんな疑問に苛まれていた彼には、ただ一つだけ確実に言える事があった。……結局最後まで、自分が誰と話していたのか分からなかった、ということである。


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