14.9-31 遭遇31
なんとびっくり、アップロードされておらんかったのじゃ。
7年も書いておれば、1日くらいはそんな日があっても……もうダメかも知れぬ……。
ミレニアが、姿の見えないポテンティアと、女子寮の屋上で話し込んでいた頃。
「ポテの部屋、すごかったなぁ……」
ポテンティアの部屋に同行したジャックもまた、男子寮の自室で、昼間の出来事を思い出していたようである。ミレニアと同じく、彼も、ポテンティアの部屋の光景が印象に残りすぎて、寝られなかったのである。
「マジ、ポテのやつ、何者なんだろ……」
暗い部屋の中。ベッドで寝そべりながら、ジャックは天井を見上げた。そんな彼の目には、天井の模様は映っておらず……。ポテンティアの部屋に広がっていた途方もなく高い天井や、地下空間に浮かぶ眩い人工太陽の姿などが浮かび上がっていたようだ。ポテンティアの部屋と、ワルツたちの家がある空間は、壁を隔てて異なる空間なのだが、少々混乱気味だったジャックの頭の中では、2つの空間が一緒くたになっていたのである。
「人間って、頑張れば、あそこまで大きな部屋が掘れるようになるんだろうか……」
自分にもポテンティアのような力があれば、同じような部屋を作ってみたい……。などと考えつつも、ジャックは自分のその思考を否定する。地下の隠し部屋というのは、男子である彼にとってロマン溢れるものだったが、ポテンティアの部屋は流石に大きすぎたのだ。
「……俺も土魔法を鍛えるか。あんなに大きな部屋はいらないけど、それなりの空間くらいだったら、土魔法で作れそうだしな…………作れるんだろうか……」
なにはともあれ、明日は早起きして、土魔法の鍛錬をしてみよう……。すでに夜更かし気味のジャックが、そんな安直な考えに耽っていると、どこからともなく声が飛んでくる。
『ジャックさん、独り言ですか?』
ジャックの部屋には、もう一人、同居人がいた。女子寮とは違い、男子寮は、1人1部屋ではなく、最大4人で1部屋をシェアするという構成になっていたのである。
ただ、ジャックの場合は実家が貴族だったので、限られた大きさの部屋の中に4人が押し込まれる、という窮屈な暮らしを強いられていたわけではなかった。多少優遇されて、比較的大きな部屋を、もう1人の同居人と共にシェアしていたのである。
ゆえに、ジャックは、呼びかけられたその声を、ベッドの下で眠る同居人のものだと思い込んだようである。それ以外に声を掛けてくる者など、部屋の中にはいないはずだからだ。
とはいえ、その声質などのいくつかの点において、色々と気になることがあったようだが。
「あぁ、すまねぇ。五月蠅かったか。ところで……お前、なんか、声がおかしくないか?いつもよりも声が高いというか……風邪か?」
『そうですか?生まれつき、こんな感じの声ですよ?』
「そうか?あと、そんな丁寧なしゃべり方だったか?」
『丁寧ですか?それはありがとうございます。初めて言われました』
「なんか、今日のお前、いつもと調子が違うな……。やっぱ、風邪を引いてるかも知れないぞ?伝染すなよ?」
風邪を嫌がっている様子のジャックの反応を受けて、同居人(?)は消沈した様子でこう口にする。
『そうですか……。今まで風邪というものを引いたことが無かったので、疾病については気にしたことがありませんでした。確かに、可能性はゼロではありませんから、気をつけることにします』
「ん?お前、前に風邪を引いてなかったか?」
『えっ?気のせいでは?』
「そ、そうか?この前も……あぁ、あれは、仮病だったか……」
どうやらジャックの同居人は、仮病をよく使うらしい。そのせいか、本当の風邪なのか、仮病なのか、ジャックには判断がつけられず……。声の主の言葉通りに、納得するほかなかったようだ。
そんな中、彼の同居人(?)が、話題を戻す。
『それで、何か悩み事でも?とても悩んでいるような独り言ごとに聞こえましたが……』
「…………」
同居人(?)のその問いかけに、ジャックは悩んだ。ポテンティアのことを話して良いのか分からなかったのだ。地下空間のことを言ってはならないとは言われていないが、誰彼構わずに漏らして良い内容ではないと思ったらしい。
結果、ジャックは、同居人(?)に対して地下空間の存在を気取られないように言葉を選びながら、今日見た光景と、自身の悩みについて話し始めたのである。




