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14.9-22 遭遇22

 ポテンティアの身体が、あとほんの数秒程度でバラバラになりそうになったところで、エレベーターが地底に到着する。そのおかげで、ポテンティアは、ミレニアとマリアンヌの綱引きから解かれることになった。この時、彼は、2人と一緒にエレベーターに乗ったことを後悔していて、次回乗るときは、2人と一緒に乗り合わせないよう心に決めたとか、決めていないとか……。


『もう、ジャックさんも見ていないで、助けてくれたら良かったのに……』げっそり


 今にも死にそうな顔をしてエレベーターから降りたポテンティアは、後ろから付いてきたジャックにそう零した。


 対するジャックは、困った様子で肩を落とす。


「ごめんな、ポテ。でもな……あの状況で止めに入れると思うか?止めに入った瞬間、ミレニアにも、あのマリアンヌって人にも、ボッコボコにされる未来しか想像出来ないぞ?下手したら、エレベーターから突き落とされていたかも知れない」


『そんなことはないですよ。……多分ですけど』


 ポテンティアは自分に言い聞かせるかのように、ジャックにそう言った。どうやら自信が無かったらしい。


 2人がそんなやり取りをしていると、後ろから件のミレニアとマリアンヌがやってくる。エレベーターの中で、2人はポテンティアを巡って争っていた(?)というのに、今では(いが)み合ってはおらず、仲よさげに話をしている様子だった。ポテンティアもジャックも把握してはいなかったが、何か打ち解けるような出来事があったらしい。


 そんな2人は、ポテンティアたちに話しかけられる距離まで来ると、不思議そうな様子で問いかける。


「なに話してたの?ジャック」

「男の子同士で秘密の相談ですか?」


「『いえいえ(いやいや)、何も……』」


 ミレニアたちの争いを止められないという話をしていた、とは間違っても言えなかったポテンティアたちは、スッと顔を逸らして、そのまま前を振り向いた。そんなポテンティアたちの行動に、ミレニアとマリアンヌは「「あやしい……」」と言いながらジト目を向けるが、ポテンティアたちに後ろを振り向く様子は無い。


 そんな針の筵ともいえる状況の中、幸いと言うべきか、ポテンティアには話を誤魔化せる話題が、目の前にあったようだ。


『さぁ、みなさん。あちらが我が家になります』


「「あれが……」」


 ポテンティアの家……。そこまで口には出さずに、ジャックとミレニアはしげしげとその住宅を観察した。


 彼らから見たポテンティア邸(?)は、2階建ての建物だった。地上にあった硬そうな建物とは異なり、地下にある建物は、町や村で見かけるような一般的な住宅とは少しだけ違い、屋根にはトタンが貼り付けられ、窓には透明なガラスが填め込まれているという、現代風の住宅だ。大きく歪みの無いガラスを作るというのは、レストフェン大公国においても不可能な事ではないが、とても高価で、公都の城にすら使われていない代物だったせいか、初めてポテンティア邸(?)を見たミレニアとジャックは、目を丸くしていたようである。


 そんな家を前にして、ポテンティアは更に逃げの一手を口にした。


『ちょっとここで待っていてください。他の同居人たちに、お二人が訪問して良いかを確認してきますので』


 ポテンティアはそう言うと、ミレニアたちの回答を聞かずに、その場から走り去って行く。


 取り残された3人の内、ミレニアは、ポテンティアの背中に向かって、とても複雑そうな表情を向けていたようである。そんな彼女の表情に気付いたのは、マリアンヌだった。


「どうされたのですの?ミレニア様」


「えっと……ポテくんって、女の子たちと暮らしてるのかな、って……」


 その質問を向けられたマリアンヌは、ミレニアが何を考えてそういった発言をしたのか、すぐさま理解する。


 ただ、彼女は、ミレニアとは違い、ポテンティアと同棲している住人の1人。ミレニアと比べれば有利(?)な立場にあった。


 ゆえに、マリアンヌには、ミレニアのことを突き放すことも出来たはずだが、彼女はミレニアの心配を真摯に受け止めたようである。


「……心配されなくても大丈夫ですわ?ポテンティア様は紳士ですもの。あなたが思っているようなことは起こりえませんわ?」


「ポテくんは紳士……って、ちょっ?!わ、私が思ってるって、何ですか?!」


「それ、聞きますの?答えましょうか?」にやぁ


「〜〜〜ッ!」


 ミレニアは恨みがましい視線をマリアンヌへと向けた。対するマリアンヌは、涼しい表情だ。しかし数秒後——、


「「ふふっ!」」


——2人は揃って笑みを浮かべた。それも、とても仲の良い友人同士のように。


 そんな彼女たちの展開について行けなかったジャックは——、


「……ポテ……早く帰ってきてくれよ……」


——文字通りに居たたまれない様子で、ポテンティアの帰りを待っていたようである。 



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