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14.9-19 遭遇19

 地下空間に行く前に、4人は村や周辺地域を回ってマリアンヌに村の説明をしつつ、同時に自己紹介もすることになった。もちろん、それは、マリアンヌ本人も例外ではない。


 その結果——、


「「え゛っ……お、お姫様……」」


「まぁ、名ばかりですけれどね」


——ジャックとミレニアは、マリアンヌがエムリンザ帝国の第一皇女だと知って言葉を震わせる。さらに2人は、マリアンヌの前で跪こうとするのだが——、


「「こ、これは失礼を——」」


「あ、いえ。(へりくだ)る必要は——」


『お2人とも。ここはレストフェン大公国で、彼女は公式にここに来ている訳ではありません。出来れば普通の友人と接するように、接してあげてください』


——というポテンティアの言葉を聞いて顔を見合わせると、渋々と言った様子で立ち上がった。


 ちなみに、ポテンティアもマリアンヌも、ジャックとミレニアに対して、マリアンヌの正体が魔女であることは明かしていない。その他、皇女の立ち位置は魔法によって簒奪(さんだつ)した地位で、エムリンザ帝国の皇帝と血が繋がっているわけではない、という説明もしなかった。さすがにそれを言うと、大騒ぎになる気がしたらしい。ここだけの騒ぎならまだ良いが、噂が広がって国全体の騒ぎともなれば、流石のポテンティアでも火消しは簡単ではないのだ。


 マリアンヌによる"自分が皇女だ"という情報開示についても、放置しておけばかなり大きめの騒ぎになりそうだったので、ポテンティアはもう一言追加した。


『それと、彼女がお姫様だということは、誰にも話さないでください。実は彼女、僕たちの所に身を隠しているところなのですよ。外の方々には、ここに皇女様がいるとバレるわけにはいかないのです』


 と、ポテンティアが口にすると、マリアンヌが苦笑を見せる。彼女は、今、誰かに見つかるのを怖れて身を隠しているわけではなく、自らの意思でここに留まっている状態。しかしなぜ留まっているのか、的確な理由が見つけられず……。ポテンティアの言い訳は、今の彼女にとって丁度良い内容だったのである。


 対するジャックとミレニアは、ポテンティアの言葉にコクコクと何度も頷いていた。もしかすると、2人とも、国家レベルの極秘事項を聞かされたかのように感じていたのかも知れない。何しろ皇女が大した護衛も無く身を隠すなど、それ自体が国家の大事件だからだ。


 そんなやり取りをしながら、4人は村の中を歩き回った。東から西に向かって街道沿いに細長く伸びる村の東側の入り口に始まり、村唯一の商店や、村唯一の宿屋、そして宿屋の主が経営する屋台や村長の家、西側の出口に至るまで、村を横断するように一通り。その間、ミレニアとジャックは、ポテンティアによる村の説明をまったく聞いておらず、挙動不審になっていたのは仕方がないことか。


 そして——、


『ここが実験j……風光明媚な湖となっております』


——村からほど近い場所にある湖も、立ち寄ることになった。


 村から湖へは、綺麗な道は無く、獣道以上、街道未満という半端な大きさの道が作られているだけのはずだった。湖には恐ろしい魔物が住みついていると言われ、村人たちは滅多なことで湖には近付こうとしなかったからだ。


 ところが、ポテンティアたちが歩いていた道は、とても立派な道だったようである。石畳が敷き詰められた、どこかの宮殿のメインストリートのような道だ。実はここに来る直前、ポテンティアが分体たちを使って、道を整備したのだ。つい先日まで皇女をしていたマリアンヌに、獣道紛いの道を歩かせるのはどうかと思ったらしい。尤も、元の道の姿を知らないマリアンヌにとっては、気付くことの出来ない変化だったのだが。


「ん?今、何か言いかけませんでしたか?」


『いえ何も』


 と、マリアンヌからの指摘を否定するポテンティアが言うには、ここは風光明媚な湖という話だった。しかし、少なくとも、彼以外の3人にはその湖が美しいとは思えなかったようである。


「なんだか……荒れ果ててるな……」

「こんな場所だったかしら?」

「風光明媚というより、何か大きな自然災害があって出来上がった水たまり、といった様子ですわよね……」


 そんな3人の言葉通り、そこにあった湖は、確かに湖ではあったが、周辺の木々は枯れて途中から折れていたり、地面を大きく抉ったような跡があったり、あるいは大きな岩が砕かれたような跡が残っていたりと、美しい景色とはまるで異なる殺伐とした風景が広がっていたのである。数日前に、ルシアの魔力によって暴走した大気が、湖とその周辺の森を破壊し尽くした結果だ。むしろ、ルシアの魔力を考えるなら、まだ軽い被害だったと言えるかも知れない。なにしろ彼女がその気になれば、湖や森どころか、大陸ごと吹き飛ぶのだから。


『まぁ、色々とありましてね?本当は美しい景色が広がっていたのですよ。まぁ、仕方がないので、次の場所に行きましょうか』


 ポテンティアはそう言って一行の先頭を歩き始めた。


 彼はいったいどこに行こうとしているのか……。目的地無く歩き続けるポテンティアに対して、ジャックが——、


「おい、ポテ!次はどこに行くんだ?」


——と問いかけると……。ポテンティアから帰ってきた答えは——、


『僕らの自宅です』


——この村の中にあって、村ではない場所。地下大空間に向かうというものだった。


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