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14.9-18 遭遇18

『こちらが表の世界となります』


「……ここは普通なのですわね」


 ポテンティアはマリアンヌを連れて、地下空間から外に出た。地上まで数百メートルはある階段には、今やワルツ製のエレベーターが設置され、誰でも好きなときに、地上と地下を行き来できるようになっていたので、さっそくそれを使って表に出てきたのだ。


 地下空間の景色が見渡せるエレベーターの中で、マリアンヌは驚きを隠さずに、コロコロと表情を変えていたようだ。エレベーターが動き出した当初は、何が起こるのか分からない鉄の箱の中で恐怖し、次第に景色が良くなっていくと、今度は目を輝かせ、そして天井付近で輝く人工の太陽が強大な魔法により実現されていることを知り、目を開けたまま唖然とする……。ポテンティアと二人きりの時に限り、表情豊かなマリアンヌの姿は、どこからどう見ても魔女には見えず、見た目通りの少女のようだった。


 ただそれは、エレベーター内部での話。エレベーターから降りて他の住人たちと顔を合わせる頃には、マリアンヌの表情は仮面を被ったような微笑に変わっていたようだ。まぁ、それはそれで、ポテンティアとの行動を楽しんでいるように見えなくはなかったが。


 そして、今。2人は地上にあるハリボテ(?)の住宅を出て、表の世界にやってきた、というわけである。


 そこでポテンティアは——、


『ん?おや』


——その場にいた人物たちの姿に気付くことになる。ジャックとミレニアだ。


「「んなっ……」」


 ポテンティアの姿に気付いた2人は、揃って同じような反応を見せていた。何かに酷く驚いたように、身体を()()っているという反応だ。受け入れがたい事実から逃げようとしているように見えていた、とも言えるかも知れない。


 そんな2人に対し、ポテンティアは話しかける。


『お二人とも、このような場所で奇遇ですね?もしやデートですか?』


 そんなポテンティアの問いかけに、ジャックもミレニアも、揃って首を横に振った。


「ち、違う!」

「違います!」


『おや、そうでしたか。これは失礼。では、一体何故……』


 とポテンティアが問いかけると2人が揃って口を開く。


「ポ、ポテくんこそ、デートをしてたんじゃ……」

「お、お前こそ、デートをしてたんじゃないのか?!」


『んん?僕がマリアンヌさんとデート?まぁ、そうですね』


 その瞬間、ガーンッ!と頭に雷でも落ちたかのような衝撃がジャックとミレニアのことを襲う。もちろん、物理的にではない。精神的に、だ。


 そんな2人の反応が面白かったのか、ポテンティアはクスクスと笑みを浮かべた後。事情を説明する。


『ただし、この地方に始めてくる女性をエスコートして、村の紹介を行うことがデートと言えれば、の話ですけれどね?』


「「えっ……」」


『彼女はマリアンヌさん。訳あって、昨日から僕たちの家に滞在しています』


 ポテンティアがそう口にした瞬間、再びジャックとミレニアの頭に、ズゴーンッ!という衝撃が走る。今回も精神的な衝撃だ。


「ぼ、ぼくたちの家に滞在しているって……ま、まさか……!」


「お、落ち着け!ミレニア!流石に昨日今日でどうなる関係じゃ——」


「他の方々も同じ家で同棲してるんですか?!なんて……こと……」がくぜん


「そ、そっちかよ……」


 ミレニアは絶望した。ポテンティアがマリアンヌと共に行動していたことに、ではない。ポテンティアが、ワルツたちと一つ屋根の下に住んでいるという事実に絶望したのだ。


 結果、ミレニアの頭の中は、限りなく真っ暗に近い真っ白に染まってしまったようである。ジャックが彼女の肩を揺らしても反応はない。もしも魂というものを可視化することが出来たなら、今まさに、彼女の口からは、何かガス状のものが抜け出していたことだろう。


 しかし、そんな彼女のことを現実に引き戻したのも、やはりポテンティアの一言だった。


『もしも時間が許すのなら、僕たちの家に寄っていきませんか?』


「あ、はい……」


 声は小さいものの、ミレニアが再び反応を見せる。残りHPは1か2くらいか。


 一方、彼女とは対照的なテンションを見せていたのはジャックだ。


「ポ、ポテん家か……」かぁっ


 と、なぜか顔を赤らめるジャック少年。どうやら彼としては、ポテンティアたちの家に行くというのは、心拍数が上がってしまうような事だったらしい。ただ、ミレニアの消沈具合が突き抜けていたためか、周囲の者たちがジャックの変化に気付くことはなかったようだが。


 こうしてポテンティアたちは、村の中の観光をしたあとで、再び地底へと向かうことになったのである。ミレニアとジャックにとっては、初めての地下大空間。そんな2人になんと説明すべきかと、ポテンティアは今から頭を悩ませるのであった。


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