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14.9-14 遭遇14

 そして——、


「私としては、ポテンティアの謎の生態について話すよりも、貴女の事を聞いてみたいわね」


——ワルツは話題を変えるように、マリアンヌへと水を向けた。ポテンティアの生態を明らかにするためには、彼のことを解体するという選択肢しかなかったので、思考を切り替えることにしたらしい。


 対するマリアンヌは、表情を一瞬だけピクリと動かした。ついにその話題が回ってきたか、といった様子だ。皆と食事を共にする以上、誰かに聞かれる可能性は高いと、マリアンヌも考えていたようである。


 ただ、どこまで話すべきか、その結論にまでは至ってなかったようだ。マリアンヌは悩んだ末、藪蛇になるかも知れないと分かりつつも、ワルツに対して逆に質問した。


「どのような話をお聞きになりたいのでしょう?」


 ワルツは自分から一体何を聞き出そうとしているのか……。皆の妹と言いつつも、ズバリと切り込むような質問をしてくるこの少女から、どんな返答が飛んで来るのだろうか……。そんな事を考えながら、マリアンヌが待ち構えていると、ワルツは「んー」と唸って考え込んでから、答えを口にした。


「じゃぁ、せっかくだから聞きたいんだけど……」


 どうやらワルツの中では質問が決まっていなかったらしい。とはいえ、ほぼ初対面と言えるマリアンヌには分からない事だったようだが。


「どうやったら、お姫様になれるの?いや別に私はお姫様になんてなりたいとは思わないけど、純粋に不思議に思ったのよ。だって、貴女って、現国王とは赤の他人なのに、お姫様になった、ってことよね?つまり、王様が自分の娘を間違えている、ってことよね?しかも長女を。ちょっと意味が分かんないわ……」


 ワルツがそう答えると、マリアンヌは大して驚いたり、苦々しい表情を浮かべたりすることなく、淡々と返答を始める。答えることで負担を感じるような内容ではなかったらしい。


「簡単な話ですわ。"父"は耄碌していたのです」


「耄碌……認知症ね。だとしても、兄妹とか、親戚とか、本当の長女を知ってる人たちが黙ってないでしょ。どこから出てきた……っていうか、お前誰だ、って騒ぎになるんじゃない?」


「そうでもありませんわ?だって、他の兄妹たちも同じですもの。皆、"父"の子どもだと主張しておりますが、証拠なんてどこにもありませんもの」


「うわっ……出たわよ。ドロドロなやつ……」


 ヘドロもびっくりな人間模様。そんなものを垣間見た気がしたワルツは嫌そうな表情を浮かべたようである。その際、彼女がチラッとテレサを見たのは、テレサもまた、ドロドロな王宮の中で暮らしていたのではないか、と考えたからか。


 ちなみに、ワルツの視線の先にいたテレサは、テレビに映る内容の無いドラマをボンヤリと見つめるかのように、マリアンヌの話を理解していなさそうな表情を浮かべていたようである。彼女には()()の記憶があまり残っていないので、自分が第四王女をしていたという記憶はあっても、どんな生活を送っていたのかまでは覚えておらず……。ドロドロな人間模様というものがよく分からなかったのだ。……あるいは、今現在の人間関係事態が、既に、ドロドロとしていると感じていて、人生を悲観していた可能性も否定は出来ないが。


 まぁ、それはさておいて。マリアンヌの説明は続く。


「仰る通り、決して綺麗とは言えない人間関係にまみれながら生活していましたわ?ですけれど、それこそ、私の臭気魔法が効果を発揮しますの。私に反感を持っている方々を匂いを使って操ってしまえばいいだけですもの」


「なるほど……。まぁ、原理は分かったわ?だけどさ、お姫様になって嬉しいこととかあった?」


「そうですわね……。毎日自堕落な生活を送るのでしたら、森の中で一人暮らしをしていた頃の方が良かったですわね。ドレスも窮屈なだけですし……。強いて言えば、お料理が……あぁ、でも、ここで頂く食事の方が何倍も美味しいですけれど。これはお世辞ではありませんわ?」


 と、マリアンヌは、先輩王女であるテレサのことを持ち上げる。


 しかし、テレサに喜んでいる様子は無い——どころか、話を聞いている様子すらない。彼女の目は、依然として死んだ魚のように光が無く、グラタンを口に含んでモキュモキュと口を動かすばかりだった。それも3本の尻尾を、椅子の後ろでパンパンに膨らませたまま。


 どうやら彼女は、マリアンヌが話している間中、ベアトリクスアレルギーとも言える新種の病を発症していたようだ。


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