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14.9-12 遭遇12

「んあ?あぁ……お主があれか。妾とキャラが被るかも知れぬという姫か」


 配膳を終わった後、くるりと後ろを振り向いたテレサは、そこにマリアンヌたちがいる事に気付いて、そんな事を口にした。彼女の言葉に深い意味は無い。彼女にとっては、ただの挨拶のようなものだった。


 しかし、対するマリアンヌとしては、テレサが一応"先輩"に当たるためか、恭しく頭を下げた。


「初めまして。私、マリアンヌ=ローゼハルトと申します。ハイリゲナート王国の南にあるエムリンザ帝国の第一皇女をしております者()()()?」


 マリアンヌが名乗り終わったその瞬間のことだ。テレサの尻尾が、3本ともブワリと大きくなる。


「で、ですわ、じゃと……」わなわな


 テレサはそう言って後ずさり、後ろにあった食卓の椅子に背中をぶつけて、「んにゃっ?!」と声を上げた。どうやら、彼女としては、マリアンヌの話し方に、何か思うことがあったらしい。


 そんなテレサの反応を見ていたルシアは、ハッとした表情を浮かべた。彼女はテレサの反応の理由に思い至ったのだ。


「……テレサちゃんさ。今、ベアちゃんのこと、思い出したでしょ?」


「っあ!ア嬢!その名前を口にするのは良くない!とても良くないのじゃ!彼奴(あやつ)が出てくるかも知れぬ!」


 どうやらテレサは、マリアンヌと似たような話し方をするベアトリクスのことを警戒しているらしい。ミッドエデンにいるコルテックスのところに魔道具"どこ()でもドア"がある以上、いつベアトリクスが現れるとも知れないからだ。今までも、コルテックスやカタリナ、あるいはユリアたちの噂をすると本人たちが現れていたこともあって、テレサとしてはフラグのように感じられていたようである。


 もしも今ここに天敵と言えるベアトリクスが現れた場合、学生生活が崩壊する……。テレサはそんな警戒をするが——、


「こ、来ない……ようじゃの……?」


——玄関の扉の方も、トイレの扉の方も、あるいは床にあった隠し扉や、キッチンの戸棚などからも、ベアトリクスが現れる気配は無く……。ほっ、と胸をなで下ろす。


 とはいえ——、


「どうかされたのですの?」


「っ!」ブワッ


——マリアンヌのそのしゃべり方には、簡単に解決できないトラウマ、あるいはアレルギーのようなものを抱いていたらしく……。テレサはマリアンヌが喋る度に、尻尾を膨らませたり、髪の毛を逆立たせたり、あるいはソワソワと落ち着きが無くなったりと、何かしらの反応を見せていたようである。


 そんなこんなで自己紹介も終わり、昼食の時間になった。


 料理の内容は、テレサが作ったマカロニたっぷりのチーズグラタンと——、


「テレサちゃん、それいる?」


——白いご飯だ。そう、リゾットではない。茶碗に入った白米だ。


「……この姿を見ての通り、妾、和食が好きゆえ……」


「割烹着を着てるから和食が好きっていうのは……まぁ、100万歩譲って認めるとしても、グラタンは和食じゃないよね?」


「……どこかの誰かのために稲荷寿司を作ろうとして、ご飯が余ったから出した、と言えば良いかの?」


「ま、それなら仕方ないかなぁ。うん」


 と口にするルシアの前には、しかし、茶碗のご飯は置かれていない。彼女の前には茶碗の代わりに、皿に載った稲荷寿司が置かれていたようである。


 ルシアだけ特別メニューな様子を見て、マリアンヌは首を傾げていたようだ。自分を含めた他の5人が皆、同じメニューだというのに、ルシアだけが違うというのは奇妙に見えたらしい。


 よほど我が儘なのだろうか……。マリアンヌの表情には、そんな疑問が浮かんでいたようである。そんな彼女の反応にテレサが気付いて、説明を口にする。


「あぁ、ア嬢の昼食だけ奇妙だと思ったかの?実はのう……これは仕方がない事なのじゃ」


「仕方が……ない?」


「うむ。ア嬢はの?毎食寿司を食わねば死んでしまう病を患っておっての?」


「ちょっ……テレサちゃん!何適当なこと言ってるのさ?!」


「では、試しに、寿司を抜いてみてはどうかの?」


「んぐっ……」


「抜けぬじゃろ?」


「で、でも、だからといって、死ぬわけじゃないし。ただ、ストレスで凶暴になって、テレサちゃんに八つ当たりしちゃうかも知れないけど。それでも良かった抜くよ?」


「…………」


 テレサは言葉を失った。彼女は気付いたのだ。ルシアが寿司を抜くと、死ぬのは彼女ではなく、自分自身なのだ、と。


 結果、テレサの顔からは、スゥッと表情が消える。そして彼女は話を誤魔化すかのように、食事に手を合わせて言った。


「いただきます」


「「いただきます」」

「……いただきます」


 テレサの挨拶に合わせてワルツとアステリアが挨拶を口にする。その後、少し遅れて、ルシアも挨拶を口にした。その結果、どうやらルシアは、テレサに対する追求を諦めたらしい。テレサの作戦通り(?)である。


 そして最後の一人。


「い、いただきます……?」


 マリアンヌも挨拶を口にして……。6人の昼食が始まった。

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